「…ふぅ…あいつらやっと帰りよったな」

「うん…はぁーホンマ疲れた…」


蔵とあたしは深い溜息をついて、部屋中に散らばった食べ物のゴミや空になった大量の缶ビールを片付け始めた。

時刻は23時を少し回ったところ。
世の仲睦まじいカップルは今まさに、愛を育んでいる真っ最中なのだろうか。

何てことだ。


「ちくしょう…羨ましい」

「…ん?なまえ、今なんか言うた?」

「いっ…いや。何でもない」

「そーか。ほならええんやけど…あ、せやスマン。ちょいそこのタオル取ってくれへんか。謙也のアホが床にワインこぼしとったみたいや」

「うっわ有り得へんなアイツ!…はい、タオル!」

「おおきに。今度一緒にシメに行こな」

「うん!」


それに引き換え自分たちときたら…
仲はまあ普通に睦まじいとはいえ、今2人が勤しんでいるのは決して"夜のナントカ"なんかじゃない。
呼んでもいないのに突然現れた、KY御三家による悪ふざけの後始末である。

つまり中学からの知り合いで、現在も同じ大学であるアホの謙也・ユウジ・金ちゃんの3人に。
酒飲んで騒いで暴れ回って帰られた後の、大大大掃除だった。


*


「毎度おおきにーっ!」

「"突撃! 隣の新婚さん"のお時間でぇえええす!!」

「ひゃっはぁーーー!!なまえーっ白石ー!!」

『入ーれーてぇえー!!』


遡ること4時間前。
玄関先で聞き覚えのありまくるバカでかい声がして、あまりにもうるさいのでドアを開けたら。


「…は?」

「よう青少女!白石とは今日もよろしくエクスタっとるか!?」

「酒と食いモンぎょうさん買うてきたったで!今日は俺らが寝かさんぞみょうじ!!」

「なあなあなまえ!あんな、ワイ去年のクリスマス会でなまえがやった"七面鳥のモノマネ"がどうしてももっかい見たいねん!今からのパーティーでやってくれへん!?」


ものすごく。
…ものっすごく、ガッカリした。


「…っ帰れえええええ!!」


*


「おうお前らか!急にどないしたん…っと、まぁええわ!寒いしはよ中入り!!」

『おおきにー!!』


私は憤って絶叫したというのに。
お人よしの蔵は、やつら3人をいとも簡単に中へ通してしまった。

何てことだ。
せっかく2人っきりのクリスマスイヴを…
ベタかつタブーな行為だが、突然泣き出して「私と友達どっちが大事なの」と思わず聞いてやりたくなった。

しかし、あたしは彼のこういう友達想いなところにも惚れているのは事実。
だからそんな子供じみた我が儘はよすことにした。


「…ま、楽しいやろうしええか」


そんなこんなで、5人のゲリラ同窓会的なクリスマスパーティーがおっぱじまる。


「んでお前ら、結局何しにここに?」

「そらもちろん、なまえと白石の甘い聖夜を乗っ取りに来たっちゅー話や」

「あぁ!?何やと非リアマジで死なすど!なめとんか自分!!」

「相変わらず酒グセ悪いなぁなまえは…小春のほうがよっぽど女っぽくて可愛ええ酔い方するわ」

「なーなまえ知ってるか、白石痔持ちやねんで?せやしやめときいやー。代わりにワイと結婚しよー?」

「何言うとるんや金ちゃん…俺は痔やない。謙也が顔面水虫なだけや」

「何じゃそれ意味分からんわ!!つーか何で俺!?」

「そうなんか!ほんならあたしが金ちゃんと結婚して白石が謙也と結婚して、ユウジが水虫と結婚すれば全ての合点がいくわけやな!!」

「誰の合点がいくねん!おいみょうじコラおどれ何ほざいとんじゃ!」

「なあなあ野球拳しようやー!!」

「おっええやん!あたし参加せえへんしあんたらで好きにやりーや!!」

「ええええつまんねー!!」


このように。
全員が全員まるっきり下戸のあたしたちは、開始からものの10分ですっかり出来上がっていた。
酔っ払い同士は話が支離滅裂なのが定石だと聞いたが、まさにその典型的な例だったと自負する。

…ちなみにその後3時間ぐらいの記憶は全くない。

気がついたら珍客3人はいなくなっていて、代わりにあたしの隣でうとうとしている蔵と部屋一面に広がる無数のゴミたちが後に残されていた。
立つ鳥跡を濁すな!


「…ふぅ…あいつらやっと帰りよったな」

「うん…はぁーホンマ疲れた…」


そうして冒頭に戻る。


*


30分ぐらいかけて部屋を綺麗にすると、蔵とあたしはまだ全然覚めない酔いと疲労のせいで同時にソファに倒れ込んだ。


「……眠い」

「せやなぁ…」


あと1時間もしないうちに12月24日は終わる。

結局あいつらの策略どおり、あたしが望んでた甘い展開には持って行けなかった。
残念。


「……」


ふと近くにあったゴミ箱に目をやった。

さっきまであらゆるものがそこに投げ入れられて、こんもりと廃棄物の山ができていたのだけど。
蔵がゴミ出し用のでっかいポリ袋に移し替えたため、今現在そこには何も入っていない。
空っぽのゴミ箱だ。


「…そういえば、明日がホンマのクリスマスやねんな」


もう今日で楽しみ尽くしたわー。
そう呟いてパチンとリビングの電気を消すあたし。

お風呂は明日の起きぬけに入ろうと決め、ソファでそのまま眠ろうとすると、


「!?」

「さぁーなまえ。あいつらも帰ったことやし、そろそろ始めよか」


突然蔵があたしの上に乗ってきた。


「ちょ、蔵重い!まだめっちゃ酔うてるやろ…!」


その細マッチョな身体を無理矢理起こそうとするけど、不可能だった。
頬をうっすら赤くして目をとろんとさせた彼は、


「24日はまだ終わってへんやろ…俺、今日のうちにどうしてもお前とやっときたいことがあるんや」

「……な」


そう言って柔らかく微笑んだ。
そうして、


「待ちくたびれたやろ?……ん」

「っ……あ…」


結局あたしの望みは叶うこととなり。
つまり楽しみにしていた甘い展開は訪れることとなり、


「っはぁ…蔵、愛してるで…」


事が終わった後ソファ脇のゴミ箱には、


「…俺もや…メリークリスマス、なまえ」


清く正しい恋人たちの、確かな理性を証明する道具が残されていた。



愛の巣ジャックと待望ジョージ
(結局最後、ゴミ箱に何が残ってたん?ワイ分からんねんけど)
(サック…いや、スキンっちゅー話とちゃうやろか)
(どっちも一緒やろ…つーか下ネタやんけ!)









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