「スピードスターや!」
せっかちなあなたはいつも私の先を行く。
私はあなたの隣に立つことは叶わなくて、
いつだってあなたの背中を見つめるだけなんだ。
12月24日。
おそらく一年でいちばん街中がリア充で溢れる日だと思われる今日、
私も謙也とデートすることになった。
街路樹に街灯、お店のディスプレイのイルミネーションに囲まれて待ち合わせ場所へ向かう。
ベタなクリスマスデートかもしれないけど、私はこういうのに憧れていたからワクワクしっぱなし。
おしゃれにも気合いを入れてきた。
「――おっ、なまえ!」
待ち合わせ場所にはやっぱりというか、もう謙也がいた。
満面の笑顔でぶんぶんと手を振る彼がなんだか可愛らしくて自然と口元が綻ぶ。
「お待たせ、謙也!やっぱり謙也来んの早いわ」
「っ! お、おお……」
「あれ、どうしたの?」
「っ、なんもない!早よ行こ!」
「え、うん……」
なんか謙也の反応がおかしかった気がしたけど、私は気づかないふりをした。
* * *
流石クリスマスイヴというか、道が凄く混んでいた。
謙也は人混みをかき分けるのも速くて、私は追いかけるのに精一杯。
ヒールを履いた私の足はいつもより動きにくくて、少ししんどくなってきた。
私はもうどんどん小さくなっていく謙也の背中を見ることしか出来なかった。
どうして今日の謙也は冷たいんだろう。
返事は上の空だし、ずっと俯いてて。
今だって、こっちを振り返ってもくれない。
あ、やばいちょっと泣きそう。
そう思った瞬間私はとうとう謙也を見失ってしまった。
(どうしよう………)
サーッと顔から血の気が引く。
とりあえず目印になりそうなところに行けばいいかな?
私は道を逸れて、大きなツリーのある広場に出た。
『ごめん、謙也のこと見失っちゃった。××広場のツリーの下にいるから!』
とりあえず謙也にそうメールする。
ここで待っていれば謙也はすぐ来てくれるはずだ。
それなのに、今日の謙也の様子が頭から離れなくて、凄く不安だ。
謙也は本当に、来てくれるのかな……
「なまえっ!」
そう思った次の瞬間、息を切らした謙也が走ってここへ来た。
まだメールしてから二分しか経ってないのに。
「ごめんな、なまえ。俺のせいで……」
「いや、そんなことないよ!」
「いや、ちゃうねん。今日は俺多分いつもより速く歩いとったから……」
「え……」
その言葉を聞いた途端、私の心臓がドクン、と嫌な音を立てた。
でも、
「今日のなまえ、ほんまに可愛かったから…いや勿論いつも可愛いけど……いつもより緊張して、うまく喋れんかったし、歩調も速なってたと思う……」
と、謙也は言った。
つまり私の不安とかは全くの杞憂だったらしい。
顔を真っ赤にしている謙也を見たら、急に気が抜けていくのがわかった。
「……ヘタレ」
「うっさいわ!……でもほんっっまにごめん」
そう言って謙也は私に手を差し出した。
「またはぐれたらあかんし、な?」
謙也はそう言って笑った。
私はすぐにその手を握る。
デートの仕切り直しだ。
「よし、行くで!」
相変わらず謙也の歩調は速くて、私は彼の背中を見てるだけだ。
でも、どんなに私が遅くても彼は私を決して置いていったりしない。
その背中を追いかけるだけでいい
(たとえ私が追いつけなくても)
(あなたが私の手を引いてくれるから、)