junk | ナノ

※ホストぱろ



「今日も垣根さんは絶好調みたいですね」
「ああ、そうだな…アクセラレータはいつも通り、って感じだな」
「なまえとかみやんはいつもどーり仲良さげだにゃー?」
「わ!おおお、オーナーっ!びっくりさせないでくださいよ!」
「土御門も絶好調みたいだな…」
「まあな」
オーナーの土御門さんに背後から腰にぎゅうっと抱きつかれたまま、上条さんに目で助けを求める。口パクで、がんばれ、と返されました。上条さんも相変わらずの平和主義で、
「ああっと!手が、手が滑ってもうたー!」
バシャッ!
「不幸だ…」
………―相変わらずの、不幸っぷりですね。 厨房担当の青髪さんがなぜかカウンターのところまでやってきていて、コップを持っていた手を滑らしてしまいその中身が上条さんの顔面に。って、わたしも少し濡れちゃいました。ちら、とわたしの腰に抱きつくのをやめてうしろに立っている土御門さんを見てみる。そちらには被害がなかったようで安心です。
「まさか、かみやんにぶっかけてしまうとは…」
「残念だったにゃー」
「っ、元はと言えばお前がだな、」
「かみやん、八つ当たりはよくないぜい!って、なまえにまでかかっちゃったのかにゃー?ごめんにゃー」
「ほんまに?ごめんなあ、なまえちゃん」
「あ、わたしは大丈夫で…」

「おい、何やってンだ」
わたしの声を遮るようにしてそう言ったのはうちのホストクラブのナンバーワンホスト、アクセラレータさんだ。さっきの一部始終を見ていたのか、アクセラレータさんはスーツのポケットからハンカチを取り出し、わたしの方に差し出してくれた。
「わ、ありがとうございます、アクセラレータさん」
「ン。お前も大変だな」
「そうですか?結構たのしいですよ」
「あー、お前は鈍いンだったな」
「?」
「なンでもねェ」
アクセラレータさんは軽く頭をかいて、少し呆れ顔でそう言った。にぶい?ってわたしが、鈍いってことだろうか。む、むう。わたしって、鈍いのだろうか?
「あれ、アクセラレータさん、お客さんは…」
「化粧直しに行った」
「そうなんですか」
「その間、お前が客にでもなるかァ?」
「へ?」
にやりと笑ってそう言ったアクセラレータさんに、少しどきりとした。さ、さすがナンバーワンは違う。その笑みひとつで、何人の女性を落とせるのだろう。カウンター席に腰をかけ、じっとわたしを見てくるその瞳から目が離せなくなってしまう。
「それは俺が許さねえ」
「!」
アクセラレータさんの横に現れたのはナンバーツーの垣根さん。垣根さんはカウンターに凭れてアクセラレータさんを睨みつけた。
「なんだァ、メルヘン。お前の客はどうしたんだよ」
「さっき見送ってきたとこだ」
「あ、けど垣根さん、次のお客さまが待ってま…」
「なまえは俺が他の女のとこに行ってもいいのかよ」
「え?あ、それはその…仕事ですし…」
「流石、俺の女だな」
「誰かテメエの女だってンだ?」
「なまえ」
「ふざけンなクソメルヘン」
「やんのかロリコン」
なにやら言い争いがはじまってしまった。最近、こういった言い争いがよく起こるような気がする。気のせいだろうか。どうしたものか。そう思っていたら、土御門さんにトントン、と背中を叩かれた。振り返ると、腕をつかまれた。
「…どっちもどっちだにゃー。なまえ、とりあえずこっちに来るといいぜい」
「あ、はい。この二人は…」
「ここは上条さんがガツンと言うから、なまえはとりあえず避難しろ。な?」
「ボクもかみやんのお手伝いー、っと」
「お前も仕事に戻れ」
「かみやんの鬼ー!」
たしかに今の上条さんはすごく怖かったです。わたしは厨房に戻っていく青髪さんを見てうんうんと頷く。上条さんは厨房に行った青髪さんを見送ると、くるりと体の向きを変えてナンバーワンとツーの方へ歩いていく。わたしは土御門さんに腕をひかれてそこから離れる。
「あんな情けないナンバーワンとツーは、あまり見せたくないですからね」
土御門さんのものではない声にぱ、とそちらを見る。アクセラレータさんと垣根さんとはまた違うタイプのホスト、海原さんだ。
「そうだにゃー。…って、お前も仕事しろ」
「さっきお客さんを見送ったところですよ、そしたら面白いものがはじまりそうで…」
「お客さまが待ってるぜい。はやく行くといいにゃー、働け働け!」
「かしこまりました。では、なまえさんまた後で」
「頑張ってくださいね、海原さん」
「はい」
そう言って微笑む海原さんは、やっぱり素敵だと思う。お客さまの御坂さんの前では本人もびっくりするぐらい緊張してしまう、なんてこともあるけどそれもまた海原さんの良さなのかな、なんて。

「そういえば、最近なまえを指名したいって人が増えてるにゃー」
「あれ、それって上条さんのことじゃ…?」
「かみやんもだけど、なまえもよく言われてるんだぜい」
「そうなんですか…」
わたくし、訳あってこのホストクラブで男装アンドお手伝いをさせてもらっている身であります。わたしを指名したい人、ですか。なんだか、嬉しいような申し訳ないような、変な気分ですね。
「まあ、俺はなまえを指名させる気はさらさらないんで安心するといいですたい」
「一応女っていうのもありますし、何よりわたしにホストなんて向いてないですしね」
「それもあるけどにゃー。まあ、なまえを指名できるのは俺だけでいいってことですよー」
「お、オーナー、それなんか照れるんですけど…」
ゴツン!と土御門さんの頭に拳が振り下ろされた。わたしと同じ格好をした、わたしに仕事を教えてくれたひと。
「そこ。上条さんが居ない間にイチャコラしない!」
「…かみやんってほんとタイミングが悪いにゃー」
上条さんにはとてもお世話になっている。お手伝い、をしているわけなのだが実際、ほとんどは上条さんがやっているようなものだ。ほんとうに、彼には感謝してもしきれないくらい助けられている。困っていたわたしに、ここで働かないか、と声をかけてくれたのも上条さんだ。

わたしは、この人たちに、恩返しがしたい。住む場所と、人のあたたかさと、やさしさと、愛をくれたこの人たちに。



110324
:ほすとぱろ妄想詰め込んでみました