junk | ナノ

「あ」
「……ん?よおなまえ」
なんでこの男はホワイトデーだというのに両手いっぱいに女子から貰ったであろうものたちを抱えているんだ。普通逆ってもんでしょ。男から女に贈るものでしょ。まあイマはその逆も多いって聞いたりはするけど。けど、さ、やっぱりむかつく。そして、また渡せなくなった。むかつく。持っていた袋を自分の背に隠す。
「相変わらずおモテになってますね、垣根さん」
「嫉妬した?」
「しましたしましたすっごくしました」
「…なんか、照れるな」
「照れないでください」
「お、なんだよそれ」
垣根さんがわたしの背に隠したものに気がついた。
「こ、これは別に…」
「貰ったのか?」
「いえ」
「じゃあ誰かに渡すのか」
「まあ、その予定、でした」
袋だけはやけに綺麗な高価そうなものを選んだつもりである。中身が自分の手作りクッキーなだけに、袋くらいは、ね。作るならもっと、ケーキとかあるだろ!って思うかもしんないけど、わた、わたしの限界だったんだよクッキーが!まあ、これはもう自分のお腹で処理することに決定したから、どうでもいいのだけれど。
「予定?じゃあそれどうすんだよ」
「食べます」
「自分で?」
「はい」
「じゃあ俺にく」
「あげません」
「…ケチ」
「その両手いっぱいに抱えたものはなんですか。そこらへんの女性からもらった素敵なものがあるんですからわたしのなん…」
バサバサバサッ。信じられない。信じられるわけがない。街のど真ん中で、もしかしたらこの男にそれらをあげた女性がいるかもしれないこんなところで、どうしてそれを全て落とすことができるんですか。どうしてそれを落とした両手のうち片方の手をこちらに伸ばしてくるんですか。
「な、何してるんですか…」
「量より質」
「はあ?」
「いや、量より愛」
「……」
なんだか今、すごくメルヘンな発言が飛び出した気がします。ああもう周りの視線が痛くてしょうがない。なんなんですかこれは。逃げたい、今すぐこの場から逃げたい。
「お前の手作りだろ、それ」
「……一応」
「んで、俺にあげる予定だったんだろ?」
「ノーコメントです」
「バレンタインのは貰い損ねたからな…」
「へ」
「どうした?」
「いえ、なんでも…」
「バレンタインの時はちょうど女に囲まれてるときにお前と会ってうっわ最悪のタイミングだなー、ってすぐ追っかけようとしたんだけどよ…その後見つからなかったんだわ」
「…そ、ですか」
「だから今回こそもらう。俺はお前のが欲しいんだよ」
その言葉に少し、本当に少しだけど、ときめいた。いや、これは口には出さないが。そしてもう一度言おう。本当に本当に少しだけだ。仕方ない、
「…ん」
「!」
「はやく受け取ってください。あと、その下に落ちたものは責任持って自分で持って帰るように」
「ありがと。…俺はなまえのしかいらねーんだけ、」
「持って帰ってください」
「了解」
「…に、にやけないでください」
「そりゃ無理だな」
「…垣根さんのあほめるへん」
「はいはい」
バレンタインは渡せなかったけど、今回は渡せてよかった。今なら垣根さんがにやにや笑っているのもゆるせる。むしろ、そんな表情が見れてちょっと嬉しい。
「味は期待しないでくださいね」
「なまえが作ったもんならなんでもいける」
「…」
「俺、お前のクッキー好きだしな」
「は?あげた覚えないんですけど、ていうかなんでクッキーって…」
「だってなまえ、それくらいしか作れねえだろ?俺はお前のことならなんでも分かってんだ…」
「垣根さんのことなんか嫌いですもう知りません」
「ばっ!ちょ、拗ねるなよなまえ!」
「拗ねてません!」



110315
:一日過ぎちゃいましたがホワイトデーのお話