ohanashi | ナノ

「おやおや上条くん、お困りのようだね」

目線は机にあるプリント、しかしさっきからずっと一時停止状態の続く手。その状況を変えてやろうじゃないかと降ってきた声。顔を上げればにやにや笑っているその顔が見えた。天使か、悪魔か。今、上条当麻は目の前にいるクラスメイト、みょうじなまえに騙されようとしている…そんな気がしてならない。いや、けど今なら騙されても構わないような気も、するのだ。出された課題の範囲の授業を、俺は受けていない。いろんなゴタゴタがあったせいで学校に行けていなかった間のモノだ。こんな課題を出した先生も先生だが、とにかく自分ではどうしようもできないくらいに、俺は追い込まれていた。

「お手伝いしてあげようか?」
「お願いしますなまえさん!」
「はいよ」

めずらしく赤点から逃れた友人、土御門元春と青髪ピアス。あの二人は課題を出された俺をあっさり見捨て、さっさと帰ってしまった。みょうじなまえもまた、そんな友人たちと帰ってしまったものだと思っていたのだが。女神か?救世主か?どっちにしても助かった…!



課題を片付ける手助けをしてくれたなまえ。女神、もしくは救世主だと思っていた。だが正解は悪魔、だったのだ。

「今日の夕飯はぜんぶ上条の奢りだ!」
「さっすがカミやんだにゃー!」
「カミやん太っ腹やなぁ!」
「お、お前ら…なまえ…まさかこの為に…!」
「ごめんね上条!そして頼んだ上条!」

にやにや。なんだろう、このデジャヴ。さっきもこの笑顔見たぞ。畜生。まんまと騙されたってわけか。まあ、夕飯奢りと言ってもなにか高いもんを食わせなきゃいけないというわけじゃなく。お菓子やらなにやら、コンビニで済ませる程度でいい、とのことだ。そ、それだけは、救われたのだと思っていいものだろうか…?で、どっかに行くみたいだけど、どこに行くつもりなのかすら俺は聞かされてない。

「あ、そこのコンビニに行こっか!」
「おー。ところで、何処に行くんでせうか?」
「あれ?言わなかったっけ」
「上条さんは聞いてないですよ」
「星だにゃー!」

土御門がやけに高いテンションで言った。どうしてまた星?と聞くと今度は青髪はそれはなカミやん、と何やら得意気な顔で俺を見た。

「最近みんなで居ること少なかったから、一緒に星でも見たら楽しいんちゃうかなぁーって思ったんよ。家の中とか屋内でなんかするよか、やっぱ外がええしなぁ」
「お、お前がそれ…」
「言ったのはなまえだけどにゃー」
「まあ、そういうことなのだよ上条」
「星、か」

最近は星どころか空さえ見上げることがなかったような。いままでの記憶を辿って、ふと気づく。…たまにはこういうのも、いいかもな。
コンビニでお菓子やらジュースやらの山を購入し俺の財布は空に近い。当分、ろくな飯食える気がしねえなこりゃあ。そう思う俺の口は、自然と緩んでいた。ああ、俺、今が楽しいのか。

しばらく歩いて、やっと目的地に到着。土御門曰く、星空がよく見えるのに加えて街まで見渡せて夜景も楽しめちゃうぜ!という人にあまり知られていない隠れスポットらしい。たしかに、これはすごい。ちょっと坂道をのぼったところに、こんなところがあるなんて、な。


青髪がどこからともなく取り出したレジャーシートに座り、俺たちは星空をながめた。

「上条!あれが噂の夏の大三角形?」
「いや違う。あっちのがそうだよ」
「え、あっちってどっち?」
「いやだから、あっち、……!」

か、顔が近いんですけどなまえさん。…って、こりゃ気づいてないな。瞬間、ぞわっと俺の背に悪寒が走った。ああ、はいはい、分かってますって。

「カーミーやーん」
「そのフラグはボクたちが全力で回収させてもらいますわ」
「むぐわっ!」
「なまえを捕獲完了だにゃー!」
「なな、何すんだこのー!も、もうちょっとで大三角形をみつけ、」
「だから、あっちのアレだって」
「か、上条の説明がアバウトすぎてわからんのだよ!」
「カミやん、そういうのを教える時は手とり足とり腰と、」
「なんでお前はこんなとこで下ネタなんかを言えるんだよっ!」
「土御門、いまのはどこが下ネタ…?」
「なまえは知らなくてもいいことだにゃー」
「で、いつまでこの体勢なの?」
「んー?カミやんが無差別にフラグ立てなくなるまで」
「おい、俺は別にそんなつもりはないぞ土御門」

青髪の唐突な下ネタ、なまえと土御門の謎の密着。なんてバカなやつらなんだ。俺も含めて、ここにはバカしかいないようだ。

「わ、上条がちゃんと笑ったの久しぶりにみた!」
「え…?」
「いやあ、なんかさ、ここ最近は学校来ても変な笑い方ばっかしてたじゃん」

無理してる?っていうのかな、となまえが苦笑してそう言う。すると土御門と青髪がにやにや笑いながら俺を見て笑う。

「ボクたちもずっと心配してたんやでー?」
「カミやんは一人でいろんな問題抱えすぎだからにゃー?」
「…なんか、ありがと、な」
「あ、上条泣きそう!」
「なっ、泣きそうじゃねえよ!か、上条さんは今、目にゴミが入って少し擦っただけなんです!」
「ふーん?ほんとに?泣かない?」
「泣かないって」
「じゃ、笑おう上条!」

にっと笑うなまえにつられて、俺も笑った。バカしかいないこの日常が、好きだなって、大切だなって、俺は思う。



君の笑顔をくださいな

23 apr 30
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