ohanashi | ナノ

ぐり、と背中に食い込む足に思わず出そうになった声を堪える。出してなるものか。出したら相手の思うつぼだ。声だけは、あげてやるものか。わたしは了承してないのに、いきなりこんなことをはじめたこの人が悪いのだ。だから、声だけは絶対にあげない。

「…っ、…く…」
「おいおいなまえちゃんよぉ」
「…、?」
「なーに声出すの我慢しちゃってんのかなー」
「……?!」

突然、背中が軽くなる。いや、軽くなるどころか、身体ごと宙に浮いた。突然のことで驚くがさっきまで食い込んでいたそれがなくなったことで少しだけ安心する。いま分かることは男に片手で持ち上げられている、ということだけだ。そして、揺れて、投げられ、
ぼすんっ。揺れに揺らされ、勢いよく投げられた先にはやわらかいものがあった。なんというか、この空気には不釣合いなくらいやわらかいベッドのようだ。ギシ、と軋む音が聞こえたと思ったら男がベッドに乗りあがってこちらへ近づいてくるのが見えた。

「?」
「痛いのばっかじゃあ飽きちまったか」
「い、」
「たまには気持ちイイこともしてやんねぇとな?」

にやりと笑った男に頭の警報が鳴り響く。この男はいま本気の目をしている、危険だ、逃げろ、と。本当にこの人は嫌な趣味をしている。

「す、ストップ木原さ」
「あぁ?ここまでやっといて最後はおあずけ、ってか?」
「おあずけも何も、そもそもわたしは嫌だと…」
「抵抗しなかったじゃねぇか」
「そ、れは…」

それは抵抗したら貴方の機嫌が悪くなるのが目に見えていたからに決まってるじゃないですか。ていうかここまでやっといて、最後はなにする気だったんですか。背中すっごく痛いですし、声出すのすっごい我慢しましたし、少しは労わってくださいよ。そんなことを思ってはいても、口にすることはできない。言ったらそこでまた木原さんの機嫌を損ねかねない。今はどうやら、わたしが抵抗しているのを楽しんでいる様子なのでまだ大丈夫だろう。

「あの、とにかくダメです」
「俺に我慢しろっつってんのか」
「したいなら他あたってください」
「…本気で言ってんのか?」
「? はい」
「チッ……あーあ、萎えた」
「…!」

言葉と行動がなんかいろいろとおかしいですよ木原さん。あの、えっと、なんで萎えたといいながら私の口を塞ぐんですか。く、苦しいんですけど、え、なんで無駄に見つめてくるんですか。このお遊びもうおしまいじゃないんですか。木原さん萎えたって言ったじゃないですか、やる気ないんでしょ、あの、とりあえず手を離し…!

「ん、まぁこれでよし」
「……」

手が離れたと思えば今度は別のものがわたしの口を塞いだ。たぶん、いやきっと、これは夢だと思う。いやまさかあの木原さんがこんなに優しい触れるだけの、……き、きききききき…す…なんてするはずがないし、これは、うん、夢、です。



ささやかな甘味

23 mar 16

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