ohanashi | ナノ

キュッときつく靴ひもを結ぶ。解けてしまわないように。強く、つよく、結んでそして立ち上がる。今から行く場所には敵対する組織のリーダーがいる。顔見知りの、わたしの苦手なタイプの男だ。スパイなんて仕事をわたしに与えた土御門をひたすら恨む。仕事が終わったらとりあえず再生できないくらいにズタボロにしてやんよ。にやぁ、とひとり笑って歩み始める。

「ようこそ、スクールへ」

目の前の思考も能力なメルヘン野郎は満足そうな笑みを浮かべそう言った。適当に、よろしく、とだけ言ってわたしはメルヘンから目を離す。正直、同じ空気を吸っただけでメルヘンになっちまうんじゃないかって心配である。

「なんだよなまえ。もっと嬉しそうな顔しろって」
「はぁ…」
「ったく、素直じゃねえなあ」

じゅうぶん過ぎるほど素直ですよわたし。こうしてこの仕事めっちゃ嫌、って顔してるじゃないですか。あーもう超素直…!目の前のメルヘンはいつのまにやら自分の世界へ飛んでいってしまった。一人でぶつぶつ何かを呟いている。

「来て早々なんですけど」
「なんだ」
「帰りたいです」
「ダメ」

即答だった。たぶん、これを言った相手が土御門や海原や淡希だったら垣根と同じく即答で「ダメ」だろうな。唯一の望みは一方通行。なんだかんだでやさしいし、メルヘンのこと嫌ってるし…きっと、ね!まあ、仕事終わったあとに愚痴聞いてくれそうな人がちゃんといると分かっただけよかった。わたしは救われる。

「まずは、そうだな……来い」
「は、」

唐突に繋がれた手に嫌悪感。………だから苦手なんだこの男は。むかっとしながらも手を握り返す。痛くなるくらいに力をいれて。ざまあみろ、と思いながら前を歩く垣根の顔を見る。…なんで顔赤くしてんの気持ちが悪い。誤解されては困るのですぐに手に力をいれるのはやめた。

「ま、座れよ」
「…」

嫌ですオーラを全開にソファに体重を預けてこちらを見る垣根を見る。なんでまた垣根の隣に座らなきゃいけないんだか。…地べたに座ったほうがまだマシだ。そう思って垣根を睨むとわたしの気持ちを察したのかはいはい、と諦めたような顔をした。そして膝にひじをついてわたしを真剣な目で見た。

「なあなまえ。ここに来たのはお前の意思じゃねえよな?」
「…、はい」
「やっぱ"アレ"か」

アレ、というのはスパイ…とかそんなところだろう。垣根が鋭いのは分かってたけど、こんなに早く言われるなんてね。まあいいけど。それでもわたしは自分のすべきことをやるだけだもの。

「別に俺は構わねえよ。ただし、俺のそばから離れることは許さねえ…それだけは言っとくぞ」
「……」
「んなあからさまに嫌そうな顔すんな。傷つくだろーが」
「いや、別に垣根…さんが傷ついたってわたしには関係ありませんし、問題もありません」
「おい」
「…とりあえず、これからよろしくお願いしますね垣根サン」
「おう」

ぼそり、と垣根が小さく呟く。お前と居れんならなんでもいーんだけどよ、と。わたしはそれを聞かなかったふりをする。だって、わたしと垣根は敵同士。それに…別にわたしは、垣根のことどうとも思ってないし、一緒に居たいなんて…思って、ないし…ね。



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23 mar 01

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