今日の真島さんは、主役だ。
分かりやすく【本日の主役】とかかれたタスキを付けた真島さんは、ぽかんとする私を他所に「五月十四日は俺の日や!」と仁王立ちして宣言していた。
「……そのタスキ、どうしたんですか」
「ドンキで売りよったのを兄弟がくれたんや」
「へえ……なんてものを冴島さんプレゼントしてくれたんだろ」
こんなの一日真島さん独裁が始まるだけだろうが、きっと冴島さんも誕生日やからって大目に見たのかとしれない。そうだと思いたい。
「あ、桐生さん」
「二人で何してるんだ?」
「そうや桐生チャン。喧嘩買うてくれや」
「なに?」
話の脈略もあったもんじゃない。聞き返した桐生さんに対して、真島さんは再度「喧嘩しようや」と追加攻撃を加えた。
「デートしてるんだろ。喧嘩しないぞ」
「桐生チャン、コレ見てくれや」
「……本日の主役。なんだこれは」
「五月十四日! 今日は俺の誕生日なんや!」
桐生さんの眉間のシワが増えていく。多分真島さんが次に出す言葉に予想がついたのかもしれないが、その悪い予感は当たっている。現に、先程冴島さんと同じ展開になって喧嘩をしているから。
「誕生日プレゼントで喧嘩してくれや!」
▽
「……良かったですね、喧嘩してもらえて」
満足気に地面で大の字になる真島さんを見ながら言えば、嬉しそうに飛び起きて砂を叩きだした。冴島さんに引き続き桐生さんと喧嘩出来て、真島さん的には今日のお誕生日は最高なものとなったであろう。
「よっしゃ、あとはお前だけやな」
「私だけ?」
頭にクエスチョンマークを浮かべながら真島さんを見上げていれば、これ見よがしにあのタスキをはためかせた。
「何してもらおうかのう」
「無理難題でなければ……」
うーんと大袈裟に考える素振りを見せる真島さんは、これまた手をぽんと叩いて「そや!」と名案が浮かんだようなオーバーリアクションをする。
「決めたで!」
「わあ……なんだろな」
「膝枕からの耳かきやな」
膝枕は良いとして、耳かきか。耳かきなんて人にしたことないから怖いんだけど、と思いながら真島さんを見つめるが、本人はされる気満々でいる。いい笑顔を浮かべたまま真島さんは私の肩に腕を回し引き寄せた。
「しゃーないからのう。このタスキ、今度はお前の誕生日にプレゼントしたるわ」
「私も本日の主役になるんですか?」
「そん時は、膝枕でも耳かきでも何でもしたるで!」
何でも。
随分と魅惑のある言葉だ。ごくりと鳴った音に、真島さんはヒヒ、と笑って引っ張るように歩き出した。目的地はきっとミレニアムタワー。私の肩を抱いていない方の手で電話をかけた先は、西田さんのようだ。
「おう、耳かき買うて来い。……あ? あと五分くらいで着くわ!」
西田さんが電話先で慌てふためく様子が目に浮かぶ。
すみません、本日の主役には誰にも勝てないようです。