ドーパミン過多


真島さんには噛み癖がある。それに加えて、力強く抱き締めてきたり、夜の行為の時に柔くだが首を絞めてきたり。彼氏の愛が重たい、なんて実際に受けてみると割と痕が残るんだと思った。
こういうの、なんて言うんだっけ。

【彼氏 噛み癖】と、スマホで検索をかけてみればすぐに出てきたカタカナの文字。

「真島さんって、キュートアグレッションってやつなんですね」
「なんやて?」
「キュートアグレッション」
「何やそのキュートなんちゃらっちゅうんは」

真島さんはずい、と上半身を寄せて私のスマホを覗き込んだ。覗き込まなくてもスマホ貸すのになんて思いながらもそのままの状態でいれば、読み終わったらしい真島さんが「ほーん」と元の体勢に戻った。

「ね、合ってるでしょ?」
「噛みたなるんわ、そういうことやったんか」
「ドーパミンどばどばだって」
「そのうち、ホンマに壊してまうかもなあ」

ぎゅう、と力強く抱き締められたが苦しくなって真島さんの背中を叩くと少しだけ緩められた。
赤黒く染まった見えない位置に付けられたキスマークも歯型の痕も、痛いからやめて欲しいと思うのに、ソレを見下ろしては満足そうにする表情に強く言えない私も大概なのだろう。

「私もドーパミンが溢れちゃうかも」
「はよ溢れてまえ」
「噛んじゃうよ? ぎゅうって絞め殺しちゃうかも」

背中に回した手でぎゅっといつもより強く抱き締めれば、頭上でヒヒ、と笑う声が聞こえる。

「どっちが先にドーパミンのせいで殺されるか勝負やな」

そのまま後ろに倒されて、背中にあった真島さんの手がするすると下へずれる。時計に視線を向ければ、まだ昼過ぎなのになんて思うけれど、まぁいいか。
どうにかしちゃいたいと思う欲が溢れてしまうのを、受け取ってくれる相手がいて、それと同じかそれ以上の欲をぶつけられる。こんな幸せなことがあるだろうか。

真島さんの首に腕を回して自分の方に引き寄せる。とりあえず、真島さんの見えない位置なんてものないから堂々と付けて困らせてやろう。
いつもむき出しである彼の鎖骨上を狙って歯を立てた。



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