みかん味


暖かいコタツは一人で入るには丁度いいのに、左前に座る真島さんの長い足のせいで狭く感じた。
テーブルの上には実家が送ってきたみかんが山のように積まれていて、それを真島さんは素手で皮を剥いては白いスジもそこそこに丸呑みする勢いで食べている。これぞ冬の風物詩。去年も全く同じ構図を見た気がする。私の背後には箱で届いたみかんがまだ半分ほど入っているので、さっさと食べてもらったほうが有難い。

「そないチマチマ食べよったら減らんで」
「……もう残ったら誰かにお裾分けするからいいの」

みかんの皮が真島さんの前にたくさんあるのに、私の前には三個分だけ。一個を丁寧に剥いていたら、剥き終わったみかんが私の目の前に差し出されるので、実質三個以上私だって食べている。
来年から要らないって言おうかなと思うのに、真島さんが嬉しそうに食べるもんだから中々伝えそびれている。丸呑みしてる姿が蛇みたいだな、なんて本人には言えないけれど。

目の前のテレビは年末特番で盛り上がっているが、私も真島さんも特に真剣に見てはいない。時たまチャンネルを変えてはその番組に対して一言二言喋って、またみかん剥いて今年何があったねなんて思い出話に花を咲かせる。

今年が終わる二分前。みかんを剥くのにも飽きた私は真島さんをじっと見つめて「あけましておめでとう」と伝えると、真島さんは手を止めてテレビ画面を一度見たあと、すぐに私の方に顔を向けて「早ないか?」と返した。

「うん、二分くらいある」
「そういうんは、日付変わってからやろ」
「うん。でも練習」
「練習いるか?」

だって誰よりも一番先に言いたかったんだ、なんてセリフは真島さんから口に放り込まれたみかんの粒のせいで出なかったけど、きっと何となくだが察している気がした。
また黙々とみかんを剥いては私の口に入れてくる真島さんを見てはテレビ画面の時刻だけ見るのを繰り返していると、画面の向こうがカウントダウンを始めた。

「もう今年も終わりやな」
「うん、」

待って、まだ口の中にみかん入ってる。
あと二秒ってところで飲み込んで真島さんの方を見上げれば、いつの間にか後頭部に回った手に引き寄せられてキスをされた。
遠くでハッピーニューイヤーの声が聞こえるのに、私はまだ真島さんに言えていない。ちゅ、と離れたあと至近距離で真島さんは「あけましておめでとう」でも「今年もよろしく」でもなく、雰囲気ぶち壊しなセリフ吐いては私を床へと押し倒した。

「……なんや、みかんの味しかせんな」



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