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扉が開く音に目が覚めた。話し声がして、上体を起こしてドアの方を見れば桐生さんが丁度帰ってきた所だったらしい。私が起きたことに気づいた桐生さんはゆっくりと歩いてきて、遥ちゃんが寝ている姿を見たあと「見ていてくれて助かった」とどこかホッとした顔をしていた。

「いえ、私も楽しかったです」
「これから真島の兄さんの所に行こうと思うんだが、行くなら送るぞ」
「じゃあお願いします」

いつの間に寝たのだろうか。ソファで寝たから身体がバキバキになってしまった。子供の頃ならどこで寝てもすぐに回復したのに、やっぱり布団の上じゃないと疲れが取れない。真島さんに会ったら家に帰って寝てしまおう。




遥ちゃんが起きて少し経ってから、四人で真島建設へと向かった。もうすっかりお馴染みの入口として機能している扉を潜れば、西田さんに肩もみをされている真島さんの姿が見えた。

「流石だな、真島の兄さん」
「いやぁー、今日はホンマに勘が冴えとったわ! 百発百中やでぇ!」

「な?」と上を向くと西田さんは「は、はい!」とどこか思い出しながら答えていた。解除の方法知っててやってると思った親父が実は全て勘でやっていたなんて知ったんだ、色々と思い出すことがあるのだろう。

桐生さんはそんな真島さんに深く頭を下げて「有難う」と感謝の気持ちを素直に伝えた。

「やめぇや。そないに感謝されるような事してへんわ。遊び半分ってとこや。それに、礼を言わなアカンのはこっちの方や、名前が世話になったな」

真島さんは桐生さんから視線を伊達さんの方へ向けた。伊達さんは特別何も言わなかったけど、私は昨夜伊達さんに言われたことを思い出した。

『桐生の大事なモンと、真島の大事なモン』

遥ちゃんは言わずもがな、桐生さんにとって大切なものなのだろうけど、真島さんにとっての私とは。
そんな湿っぽくなりそうな空気を壊すように、真島さんは立ち上がりつつ「さ、メシでも食いに行こか!」とトーンを上げて話した。

「名前、行くで」
「あ、はい」

伊達さんたちに頭を下げて真島さんの隣へ向かう。「ええ仕事すると腹が空くのう」と西田さんに問えば、元気よく「はい!」と返ってきていた。
朝ごはん、と考えれば急にお腹が空いてきた。ずっと考え事したりしていたから、安心したのだろう。昨夜要らないと言ってから飲み物しか飲んでいない。

「じゃ桐生チャン、後のことは任せたで」

「ほな」と左手を上げて去ろうとする時、真島さんは「そや桐生チャン」と足を止めた。

「龍司とかいう奴に負けたら承知せぇへんで。俺との勝負も残っとるんやからなぁ」

振り返って伝えたあと、桐生さんの答えに満足したのかしてないのか、そのまま三人で公園通りに出た。





あれから三人で牛丼食べに行って、西田さんと別れて二人で家に帰ってきた。帰ってきたらどっと襲い来る疲れを誤魔化すように、交互でシャワーを浴びて、先に布団に入った真島さんは、くあっと欠伸をしていた。少しでも眠れるようにとカーテンを閉めて携帯を開く。

「何時に起きます?」
「桐生チャンは夜に言うとったから……夕方くらいやろな」
「じゃあ目覚ましかけときますね」

携帯の目覚ましを設定して、先に布団の中にいる真島さんの隣に潜り込めば、当たり前のように包み込まれた。

「昨日、セレナで何してたんや?」
「遥ちゃんとお話してましたよ」
「楽しかったか?」
「はい。妹みたいな感じがして楽しかったです」
「……そうか」
「セレナ、行きたかったんですよ。だから行けて嬉しかったし、伊達さんともお話出来て良かったです。あ、伊達さんと真島さんって仲良いんですか? 私のこと頼んでたって言ってたんですけど、そもそも私のことなんて言って……」

深い寝息が聞こえた。ゆっくりと顔を上げると、目はしっかりと閉じられていた。寝ている、真島さんが先に。いつも私が先に寝ているから、初めて寝ている姿を見た気がする。
もしかしたら寝ずに昨夜の爆弾処理やなんやらをしていたのだろう。気を張ることばかりだから疲れない訳ないんだ。

「……おやすみなさい、ゆっくりいい夢見てくださいね」

寝息を聞いていると、私も瞼が重たくなってきた。最終決戦はまだあるし完全に終わってはないけれど、真島さんがゆっくり寝られるくらいの時間はあるはずだ。薄らと残る、まだ、癒えてない傷が早く治るようにと願いながら。

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