きっとそれは初恋だった。
一目惚れってああいうことだったのだろう、と、今では妙に納得してしまうくらいの。
最初で最後の初恋だったんだと、思う。
「なーんて、何回も初恋があったら末恐ろしいよねー」
「何の話ですかいきなり」
「なんでもなーいーよー」
なんとなく橘に触発されて買った紙パックのジュースを、ぐしゃりと握り締めて笑う。
「んー、俺はやっぱりペットボトルのほうが好きかなあー」
「いやだから話飛びすぎですって」
「あやとっちの適応能力が足りないんじゃなぁーい?」
えい。飛んでいった紙パックが見事にゴミ箱に入った。
「ゆい先輩の思考回路を理解できる人なんてそうそういないと思いますけど」
そんなわけないでしょー。人間いろいろいるんだから十人や百人くらいいるんじゃない?わかんないけどー。
「ごちそーさまー」
ささっと弁当を仕舞って立ち上がる。
「じゃーまったねーん」
「いや結局何しに来たんすか…」
「あやとっちの御尊顔を拝むためー!」
いえーい、とその場で一回転してポーズなんかとってみちゃったりする。
「ゆい先輩に拝まれたら運が全部逃げそうなんで勘弁してください」
酷い言われようだなあ。ま、確かに俺が全部運もらいそうな気もしてきたけどねー!
「いつか貰った運は返しとくよー。じゃーねー!」
今度こそ教室を出ようとした。
「…あ、ゆい先輩」
「んー?」
きょう、あねきのたんじょうびなんすよ。
頭の中で噛み砕いた言葉の意味を、理解する前に言葉にする。
「へぇー。ちゃんと祝ってあげなよー?」
ふああ、と寝足りなさを示す欠伸も一緒に吐き出してしまおうか。
「そんなの、覚えてるに決まってる」
予鈴が丁度、鳴り出した。
あの忘れられない紫の瞳と、大人に近づいた彼女の面影と。
すべて消してしまうことなんてできはしないけれど。
「幸せになれるといいねー、とか。俺が言えたことじゃないだろ、」
彼女の隣に、影がもうひとつ増えたなら。
何も知らないような顔で笑って差し出すのだろう。
祝福の言葉も添えて。
プリムラ・オブコニカ
一週間後に、おめでとうを伝えようか。