部屋には煙が充満している。煙草の匂いに混じって微かに血の匂いがした。この部屋で起きたであろうことが容易に想像できて、自然に口角が上がってしまう。隠すつもりはさらさらない。
「お前んとこの新人、海に沈めたぜ」
「躾がなってなかったから」
煙の向こうで淡々とした声がそう告げる。いつもの人を小馬鹿にしたような態度とは少し勝手が違った。サンジーノの瞳は異常なほど穏やかだ。余程機嫌が良いのか、余程機嫌が悪いのか。
(間違いなく後者だな)
「ワザとだろう?」
サンジーノは自嘲気味な微笑みを浮かべながら囁くように訪ねてくる。
「テメー程の男があんな躾のなってねえ犬放し飼いにしておくわけねえもんなあ?」
「無礼は詫びる」
「無礼は詫びるだと?」
大げさな身振り手振りで、金髪はワザとらしく驚いたふりをした。どの口がそんなこと言うんだ、そう言ってサンジーノはソファに深く身を沈める。セットされた髪型が崩れるのもお構いなしだ。絨毯には大量の血痕。移動の時間すら待てなかったのだろう。ゾロシアの訳有りな視線に気づいて投げやりにサンジーノは吐き捨てる。
「確信犯の癖して」
「確信犯?」
「とぼけるな、下らねえことしやがって」
いくつだてめーは、呆れたようにサンジーノは言った。それからしばらくの沈黙。相変わらずゾロシアの笑みは消えない。ただ、それはあくまで口元だけの話だ。目元は一切笑っていない。冷たく鋭い瞳が、忌々しそうに絨毯の血痕を睨みつけていた。相変わらず吊り上った口角のまま、答える。
「俺のモンに手えだす馬鹿はいらねんだよ」
それを聞きながらサンジーノは黙って天井に向かって煙を吐き出した。知らないうちに、三本目の煙草に手をつけていたらしい。
「いつ俺がお前のモンになったよ。頭ぶち抜くぞ。…にしたってつまんねーことしたな」
「俺が殺っても意味ないからな」
「あん?」
「テメーが手えかけるところが見たかった」
「…歪んでんな」
「可愛いわがままだろ」
乾いた笑いが部屋に響く。今度こそ、サンジーノは心底呆れているようだった。笑いと一緒にいくつかの小言も聞こえてくるのは気のせいじゃないだろう。奴が三本目の煙草を吸い終わるのを待って、それからゾロシアが右の人差し指を立てて軽く手招きすると、すぐさま銃弾が二発。もちろん撃ったのは金髪だ。一発目はピアスをかすめて、二発目は頬スレスレを。
「抱きてえならテメーで来いよ」
銃を構えたまま、白い首をさらして笑う姿に眩暈がした。
歪み
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