うまく泣けないのは昔からだ。靴ひもを結ぶふりして本当は泣いてたこともある。30分はそうして靴ひもを結んでいる俺のことを誰かが待ってくれたことなんて一度もなかった。


はっとして、立ち止まる。随分前のことを思いだしていたことに驚いた。あれから数年経って俺も大人になっていて、信じられないけどこうして帰り道を並んで歩く恋人もできた。不意に立ち止まってみる。ほどけてもいないのに、屈みつつ靴ひもに手をかけて、じっと地面を睨んで耳を澄ました。ジャリ、砂を踏みしめる音をすぐそこで聞いた。顔をあげると、緑の髪に夕日があたって、よくわからない色した頭の恋人がそこに立っている。

わざとそっけない態度のまま、不自然にならないよう注意しながら呟く。

「先行ってれば」

それを聞いたゾロはちょっと怪しむように俺をみて、それからいつもするみたいに頭をガシガシ掻いて、それから言った。

「さっさと来いよ、帰んぞ。腹へった」

「…俺がいないと帰れない癖して偉そうに」


やっと絞り出したみたいな強がりは酷く頼りない。少しだけ泣きそうになっている自分がいた。涙なんかでないから、あくまで気分的なものだが。

(そう、嬉し泣きなんだよなあ)

しゃがみこむ、一人だったいつかの俺が仰いだあの高い空を、もう二度と見ることがないということが嬉しかった。
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