アホなぐるぐる眉毛。女好きで料理上手、男を卑下してるようで実際は誰のことも粗末にしない世話焼き。お調子者、いつだって騒がしいソイツと自分はいつも喧嘩ばかりで、でも本当は誰よりも気の置けない友人。

ロロノアゾロの中のサンジとはそういう人間だった。それがゾロの中のサンジの全てで、ぶっちゃけた話そんなサンジのことが好きでもある。もちろん恋愛的な意味で。だからって、どうこうするわけでもなし、そういうサンジの隣にいられることに甘んじていた。だってそれが今の自分たちの最良の形に思えたから。その選択に間違いはなかったと思う。そう、間違いはなかった。だがしかしだ、

(条件が変わりゃ、当然でる答えも変わる訳で…)

多少困惑しつつ、ゾロは目の前に座るサンジを睨んだ。ついでにその取り巻き達ももれなく視界に入ってくる。ざっと数えても百人はいるそれらに内心ため息を吐いた、一体、これはどーゆーこった。

(黄色、黄色、黄色)

目がチカチカしてきた。鬱陶しくなって振り払うかのように目を瞑り、頭を軽く振ってみる。

「よゆーだねーぇ」

茶化すようなサンジの声が聞こえたのでゆっくり目を開けて見ると、面白そうに笑ってるヤツと目があった。気だるげに足を組み、椅子の背もたれにだらしなくよりかかっている。頬杖をつく右手に隠れて口元が見えないせいか、最初は笑っているのかどうかさえわからなかった。現に瞳は一切笑っていない。初めて見るサンジだ。口元に笑みを湛えたまま、からかうようにヤツは言った。

「ここは迷子センターじゃないんだぜ?ロロノア」
「知ってる」
「じゃあなんでここにいんだよお前?」

一層楽しそうにサンジの薄い、形のいい唇が吊り上る。組まれた右足がゆらゆら揺れるのを意識しつつ、ゆっくりゾロは答えた。

「勘違いした」

そう、勘違いだった。明らかによくない連中とサンジが連れ立ってこの倉庫に入って行くのを見て、てっきりチンピラにでも絡まれたのかと思っていたのだ。サンジが喧嘩にめっぽう強いことは知っていたが、まあ友人なのだから手を貸すくらいはしてやるべきだろうと、後をついて来たらこれだ。どうやらいらない世話だったらしい。

「勘違いだぁ!?」

そしてゾロの言葉に反応したのはサンジではなかった。ゾロを取り押さえてる両脇の無駄にでかい男二人だ。仲良くハモリつつ、これまた仲良く額の同じ場所に青筋を浮かべている。1人は腕に黄色のバンダナ、もう片方は髪を金髪に染めている。サンジの金髪に見慣れているせいか、随分汚い金髪だなあ、とぼんやり思った。

「んだとっ!喧嘩売ってんのか!?」

激情した男が叫ぶ。うっかり声に出していたらしい。

「ちょい待ちちょい待ち」

呆れたようにサンジが仲裁に入った。

「だーれの許可得て喧嘩買ってんだてめーはよ?」
「っしかし将軍…」
「へえ、お前将軍なんて呼ばれてんのか」

ゾロはたっぷりの嫌味を込めてそう言ってやった。不意にサンジが立ち上がったのはその時だ。揺れていた右足が、強く床を蹴るのをゾロは見た。一瞬で互いの距離がつめられる。次の瞬間にはもう、ゾロの背後でうめき声と何か重くて大きなものが壁に打ちつけられたような音が響いていた。辺りが一気にざわめき始める。どうやら標的はゾロではなかったらしい。

「な…んで…しょ…ぐん゛」

なんとも情けない声で吹っ飛ばされた男はやっとそれだけ言った。顔は恐怖と困惑、それから痛みでぐしゃぐしゃだ。訳がわからないというようにサンジをすがるような目で見上げる。瀕死の男相手にそぐわない、なんともひょうきんな声音でサンジは答えた。

「おいおい、そんな目で見られる覚えないぜ。アンタのためだった、愛ある蹴りだよコレは。感謝しろ」
「…ゲホッ…は?」
「ソイツの言うとおりだな」
「黙ってろロロノア、話がややこしくなる。」

小さい子供に言い聞かせるような声のトーンでサンジは続ける。

「ほーら、よーく見てみろ?な?てめーが今さっきロロノアに殴りかかろうとして持ってた鉄パイプは今どこにある?ん、そうだ、ロロノアが持ってんな?つーことはどーゆーことかわかんだろ?いくら脳みそクソなお前でもな、」
「ヒイ゛ッ」
「おーわかったか、よしよしいい子だ。よかったな、頭潰されずに済んで。優しい将軍様のおかげだ、

棒切れ持ってコイツに勝とうなんざ考えんなよ?伊達に毎日棒振ってんじゃねーんだ」
「棒じゃねえ、竹刀だ」
「なんでもいいさ、」
「よくねえ」

思った以上に声に力が入ってしまった。ゾロはそこで少し後悔する。別にムキになるほどのことじゃない。子供じゃあるまいし、でも。サンジにだけはそんなこと言われたくないのだ。それは一瞬だけ、頭の隅にゾロの剣道の試合を見に来てくれたいつかのサンジの姿がよぎったからだろうか。なんの前触れもなく、あの日ひとりで会場にふらりと現れた。声を張り上げて応援するでもなく、ただ静かに、自分を見つめるあの青い目が細められたとき、

(コイツに惚れた)

視線をそらさずにゾロはサンジを見つめる。サンジもまた同じようにゾロから目を離さなかった。青い目が、あの時と同じように一瞬、細められた。それから小さく囁く。

「…そうだな、悪かった」

細められた青い瞳は優しい。なんとなく、この男は何も変わらないのではないかと思った。別人のようだがまぎれもなくゾロが好きになったサンジなのだと、なんとなく。


「お前は俺のオトモダチだから。」

しんと静まり返った倉庫にサンジの声がよく響き渡る。

「つーかその前に一般人だから?今日は見逃してやるよ、だから二度とここには現れるな、俺たちへの干渉は論外。てめーは頭がいいからわかるだろ」

ゾロは黙り込む。ここぞとばかりにサンジはそのまま歌うように話し続けた。

「俺は、」

とりまきの中の一人の肩に手を置く

「こいつらの、」

もう一人別の肩へ舞移る

「将軍なんだ」

にっこりほほ笑む。形だけはいつものサンジだ。ゾロが口を開く。


「俺とお前の関係は?」
「関係?」
「友人のままか?」
「ああ、縁を切ってくれなんて言わねえよ。お前さえよけりゃ、俺とお前は今まで通り…」

その時、ゾロの一言でサンジの言葉が遮られた。

「やなこった」

耳元でサンジが短く息を飲む音を聞きながら、その金髪を乱暴に掴み引き寄せる。随分無理な体勢になるよう引き寄せたというのに、流石というべきかしっかり戦闘態勢に入ったサンジの重い爪先が腹にめり込む一歩手前で止められていた。

「何の真似だロロノア…」

サンジが低く唸る。かまわずゾロは答えた。

「今までのお前も、今見たお前も手放す気なんざねえ。悪ぃが俺は貪欲なんだ。それと、お前が思ってるほど頭はよくない」
「…そのようだな、やっぱ酒粕だらけか?その頭」
「ははっ、いってろ、そんで本題だ。俺はてめーの隣が欲しい。」
「…だから?」
「一つ提案だ、ゲームしようぜ」
「ふうん、内容によるな」


つーかいい加減離せ、そう言ってサンジはゾロの腹を蹴って距離を置く。

「っ加減しろよ…」
「したに決まってんだろ。で?ゲームの内容は?」
「…ここにいるやつ全部俺一人で潰す。できたら俺の勝ち、できなかったら俺の負けだ」

いよいよ周りのざわめきが大きくなった。殺気だったと言った方が正しいかもしれない。一瞬目を見張ったサンジだが、すぐに余裕しゃくしゃく、にやんと生意気な顔で微笑んでから楽しそうに尋ねてくる。

「ん、なかなか面白いな」
「だろ」
「で?目的は?何が欲しい?勝者にはご褒美、これ鉄則」
「俺をここのナンバー2にしろ」

倉庫に地響きのような怒号が溢れかえる。その中でサンジは傑作!最高!とかなんとか言いながらそれはもう、はしゃぎまくっていた。ひとしきり笑って満足したのか、笑いすぎて滲んだ涙をぬぐいながら他人事のように…というかいつも通学路、別れ際に言ってるじゃーまた明日なーぐらい軽い勢いで手を振り振りサンジは答える。

「期待しねーで待ってんよ」

(素直じゃねーやつ)

去っていく背中を見送りつつ、ゾロは舌打ちをした。それからおもむろに、一番近くにいた(確か黄色い手ぬぐいを頭に巻いてた)やつが持っていた鉄パイプを強奪する。何度か握ったり持ち替えたり、手に馴染ませてそして構えつつ、呟いた。


「ぜってーあいつ手に入れる」




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -