※サンジ君:26歳、料理人、ホモ

ロロノア:45歳、結構偉い数学者、ノンケ、サンジ君のことはレストランで見かけたことがある(サンジ君は知らない)








恋人と破局した。俺にしては結構長く続いた方だったのに。一年と一カ月。ん?一年と一週間だったかもしんね。まあ、とにかく一年とちょっと。別れ方は最悪だった。俺からだったんだけど。今現在の最悪な状況と、それは大いに関係してる。


「ちょっとキミ」


冷えた冬の夜のアスファルトの上に倒れ込む俺の上から落ち着いた男の声がした。すげえな、この状況見てこんな落ち着いてられんの、と呑気に感心した。顔をあげてその顔を拝んでやろうかと思ったが、前髪が邪魔してそうもいかない。めんどくさくなって気絶してるフリしちまおうかとも考えていた矢先、急に視界が開けた。さらりと大きな手が前髪をかきあげてくれたらしい。セクハラです、お巡りさん!しらね―男が勝手に自慢のサラツヤ金髪を(ry


「死んでるんですか」

「みりゃわかんだろ」

「この状況について伺っても?」


この状況、というのはつまり。見なくてもわかる。倒れこんだまま、いかにもやる気なさげにだが一応返事だけはした。


「どうもこうもねえです、喧嘩です喧嘩。つーか絡まれたんです、ちなみに俺被害者ね。ここは譲れねーから。」


どっこいしょ、と体を持ち上げ体制を整えた。やっとまともに声の主とご対面する。

(お?)

思った以上に年上で少し目をみはった。年齢は40〜50代前半くらい。端正な顔に、暗くてパッと見わからないが驚いたことに髪の色が緑だった。品の良いコートに、革靴。


「へえ、一人相手にこの人数?」

むごいな、割と素が混じった緑男の感嘆の声になぜかドキリとする。いやいやなに言っちゃってんの俺。


「そう、俺一人、抵抗むなしくボコボコですよ」

当然のごとく嘘を吐きつつ、じゃ、そーゆーことで、とさっさとずらかろうと…したのに立てない。喧嘩の最中に足をひねったらしい。仕方ないので情けないがハイハイでこの場を立ち去ることにした。苦渋の選択だ。こんないい男が、夜中にハイハイだなんて。死にたくなる。


「その割に、君の怪我は軽いんですね」


後ろでぽつりと、世間話をするみたいに緑男が呟いた。ついハイハイをやめて、振り返ってしまう。


「は、」

「こっちの方が怪我がひどい」


こっち、というのは言わずもがなこの駐車場にバラバラと倒れてる男たちのことだ。ざっと10人か。さっきまで俺と喧嘩してたやつら。


「あんた何?何言いたいんだよ、さっきから」

「お前ひとりで潰しただろ、こいつら」


(ひーえー、ばれちまった。ばれんのはやっ。ダメじゃん俺。つーかおっさん敬語はどうしたよ、敬語は。なんかキャラちげー、その悪い顔なんなん!)


しょうがないのでバックれるのを諦めた俺はハイハイも諦めてもう一度、どっかりその場に座り直す。タバコを一本取り出して、いつも通り火をつけ煙を肺いっぱい吸い込んだ。まだ長いそれをもみ消しながら、なぜかちょっと目が生き生きしてるおっさんの問いに答えるべく口を開く。


「あーハイハイ、そうです俺が潰しました!あったりめーだろ、んな雑魚ども。やられっかよ馬鹿馬鹿しい。」

「原因は?聞いても?」


(何このおっさん、なんで見ず知らずの人間にこんな話しなきゃなんねーの?変な奴。)


思いとは裏腹に、口はあっさり白状した。多分誰でもいいから、たまりにたまった何かを吐き出したかったのかもしれない。こーゆーのは、ゆきづりの、どーでもいいやつに話すのが一番なのだ。


「そこに転がってんの」
「?、この人ですか」
「ん、それ、俺の元恋人。顔はいいだろ?割と、仕事もできんだぜ。エリートくん」
「男ですね」
「俺ホモ。偏見ある?割と世界狭い人?」

気持ち悪いならやめっけど、
そう言いつつ、笑ってしまった。笑う気分なんか微塵もないが、笑いでもしなきゃ、やってられなかった。


「最近別れたんだけど、バカにすんなって切れちまってソイツ。ほら、元はノンケの奴だからさ。どっかで雇ったみてーだけど。ね、全然だめ。弱すぎて話になんねーの」


(あーなんか、座ってんの辛くなってきた。)


ゴロリ、再び横になる。今度は仰向けに。乱暴に目をこすった左手は、その後力尽きたように顔の上で動かなくなった。緑の男は、へえ、だかなんだか、曖昧に返事をして突っ立ったままだ。いるってことは続けてもいーわけ?

「も、な、ばっからしー。そんな奴のこと一年もな。腹いせにそこにいる奴らのケツ、全部掘ってやろーかとも思ったが」

「…あんまり良い考えとは思えませんね」

「…冗談に決まってんだろ、あんなキタネーケツ。いや、うん。今のは俺が悪かった。」


はあ〜っと、盛大にため息を吐く。

「だから、今、俺傷心中なんだよ。警察は勘弁な。通報すんなら、あんたもオロス…

「動けないでしょう?」


男の視線は言わずもがな俺の足首に注がれている。控えめに指し示した指先も、やっぱり俺の足首へ。


「だから何だっつー」
「ハイハイで家帰れるんですか」
「帰れるよハイハイで」
「電車も?」
「……このクソマリモ」


今のはちょっとキタらしい。一瞬イラついた顔をした。

(大人の余裕ぶっこいてるからだざまァみ…

「へ?」


急に体が宙に浮いた。見下ろせば、広い背中。視界の横には緑の頭。


「アアアァ?」
「…うるさい」
「いや、ハア?何やっちゃってんの、おろせバカ!」
「あれ、僕の車です」
「いや、だから何!」


されるがままに運ばれ投げ出され、気づいたら助手席へ詰め込まれていた。


(えっ!なにコレなにコレ!もしかして俺お持ち帰りされてる!?)


慌てて脱出を試みる。ホモだが誰でもよい訳ではないのだ。ナイーブなのだプライドがあるのだ!(ぶっちゃけそこらへんはどーでもよい)でも遅かった。ガッと覆い被さるように緑の男は出口をふさいで、不適に笑いこう言った。


「逃げんな、」


それから一転、大人の余裕しゃくしゃくな微笑みを浮かべ囁く。

「あんなガキすぐ忘れますよ」




つかまった。












ハイハイで逃げる






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