八
診察室の机上に花が3つ摘まれて置いてある。どうせ先日めでたく八度目の生還を果たした、この困った金髪のおかしな気紛れだろうと無視した。いつも通り、淡々と診察を進めていく。
「トトロごっこしてやろうと思ったのに」
ちょうど背中に聴診器を当てたとき、金髪は意気消沈しながら言った。しゃべるな、一言でばっさり切り捨てて会話は終了。あのお父さんとメイちゃんのシーン?何だか微笑ましいですね、などと看護士は言ったが聞こえなかったことにした。
「うざったい」
診察が全て終わったあとひとこと吐き捨ててやる。前にもこんなことを言った気がしなくもない。
「えっ何その顔」
「何って何が」
「本気で嫌みたい」
「本気で嫌だ」
「うそお」
予想外の展開だ、ベポが好きならトトロも範囲内かと思ったなどと呟きながら金髪はどこか緊張した面持ちで考え込むふりをする。どうせ何も考えてなどいないくせに困った男だ。
「ま、いいや。それについてはまた後日。それよりこの花どこの花か気にならねえ?」
「気にならないどーでもいい。」
「話しがすすまない!」
気をきかせたのか看護士がにこやかに尋ねる。
「どこから摘んできたんですかサンジさん?中庭?」
「隣の隣の病室の中山さんの花瓶ですよお美しいレディ」
看護士の笑顔が消えた。
花は全部捨てさせた。