おかえりなさあい


なんとも間の抜けた声を出す。今帰ってきたこの家の主、サンちゃんに向けたものだった。ダラダラしながら物が少ないキレイに片付けられた居心地のよい家で彼を待つのが大好きだ。だから俺は超ご機嫌。


ドアの向こうで、えっ、と小さく驚いたような声が聞こえる。それからバタバタと短い廊下を歩く音。いつもより若干乱暴に開けられたドアが、勢い余って壁にぶつかった。


「またテメー勝手に入りやがったな!」


エエスウウウウ!とご立腹のサンちゃん、もとい愛しのサンジ君に襟元を掴まれぶんぶん振り回される。ちょっと!首取れそうやめて!


「だって開けといてくれたじゃん!」
「ゴミ捨ててたんだよ!誰がテメーなんざのために開けとくかボケええ!今月で何回目だこの不法侵入者!」


次勝手に入ったら警察つきだすかんな、と不機嫌な顔(でも可愛い)で言うサンちゃんに、全然警察怖くないよチョロいチョロい、と笑いながらその旨を伝える。と無言で何やら携帯を取り出し数回コール、掲げられた液晶画面には「ジジイ」の三文字が。


「だ―っ!ちょっとタンマ!」
「タンマなーし」
「玄関!次は玄関で待つから!」

それでも切ってくれない。結局ジジイコールに脅された俺は次回から郵便受けの前で待機と言うことになった。郵便受けってマンションの入り口んとこにあるからサンちゃんなんも関係ないじゃんね、不満タラタラだけどこれ以上文句は言えない。


「ったく、用もねーくせに毎回よくやるなアンタ」
「用ならあるよ、サンちゃんに会いに来てる」
「ばあか、ただ来て見て帰るのは用事って言わねーの」
「だってそれはサンちゃんがすぐバイト行っちゃうからじゃん、俺いっつも何かしら用意してんのに」


この前なんか映画の券2枚と俺置いてさっさとバイト行っちゃったじゃん、普通映画の券2枚持って浮かれてる人間置いてバイト行く!?控えめに抗議してみたけど、当の本人はキッチンの換気扇の下で煙草をふかして上の空だ。話なんか全く聞いてない。ちょっと虚しい、がしかしこんなことどうってことないのだ。このツンがサンちゃんの可愛いとこで…つーかサンちゃんもしかして結構寝起き?いつもサラサラの金髪が今日はちょっとふにゃふにゃしてるし、眼鏡かけてるし服装もいつもよりゆったりしてて…肌白っ!首エロ!


「可愛いいいい」
「……なんなんだアンタ」


クッションに顔をうずめて悶える俺をサンちゃんは呆れたように見下ろす。そしてそのままポツリと聞いてきた。


「で、今日は何だよ」
「そうそう今日はですね!」


パッと俺は顔を上げる。それから急いでズボンのポケットから紙を2枚取り出して掲げた。


「じゃーん」
「ナニソレ」
「チョッパーランドの1日券!エースお兄さんとデートしてよサンちゃん!」
「えー俺パス」
「なんで!」


速攻で聞き返す。しばらくはぐらかしていたサンちゃんだったが観念したのか、ばつが悪そうに答えた。


「だって俺そーゆーとこの遊び方知らねーもん」
「え、」


予想外すぎる答えに一瞬放心、それから光の速さで理解。そっか、この子ってこーゆー子だった。遊んでるようで、料理の修行やら店の手伝いやらで意外にも世間の娯楽に疎いのだ。まじまじと感慨深げにサンちゃんを眺める。

「な、んだよ」

ほんのり顔が赤い。青い綺麗な瞳がうろうろしてる。さっきまでの飄々とした男はどこへやらだ。あーあー、とたまらなくなって俺は頭を抱え込んだ。やっばい、大体へらへらしてるけど元来自分は欲望には忠実な方なのだ。欲しいと思ったらすぐ欲しいし、我慢だってあんまりするタイプではない。でもサンちゃんに対しては頑張ってる。でも限界だよね、なにこの子すげー押し倒したい。


「駄目?」
「いや、何のこと?」
「……。」


いきなり大人しくなった俺に耐えきれなくなったのか、それとも照れが限界点を超えたのか、サンちゃんお得意の足技(今日はかかと落としでした)で無理やり俺は自分との葛藤から引き戻された。


「痛ったああァ!」
「なんか言えや糞そばかす!」
「ひど!でもうん、今日はチョッパーランドやめよう!」
「は?」


意味分からんひとりで行けばいいじゃん、いやひとり寂しいでしょ、会話をしながらサンちゃんから(いつの間にいれたのか)コーヒーを頂く。サンちゃんもマグカップ片手に、テレビのリモコンを操作しつつ俺の隣に座った。視線はテレビのニュースに釘付けで、女優のロビンちゃんが結婚しちゃっただのなんだの言いながら騒いでいる。


俺はというと、良い香りの湯気に目を細めながら、やっぱりこの子といると幸せだなあなんていう現実をしみじみ噛みしめていた。


そこでニュースが偶然チョッパーランドの開園前中継を映し出す。ちらりとサンちゃんが視線をよこした。


「ホントにいいのか?」

あーあ、そんな顔しちゃって!
あんな態度取っておきながら、実際お人好しのサンちゃんは俺がぐずれば絶対一緒に行ってくれたのだ。そんなとこもたまらなく好き。


「いいよ」
「あ、そ」

ちょっと意外そうに、サンちゃんが一瞬だけこちらを見たのが嬉しい。そして俺はなるべく謙虚に思われるように気をつけて尋ねた。


「ね、昼飯の買い物ついてってもいい?」
「…昼までいんの」
「もちろん」


呆れたようにサンちゃんは俺を一瞥して「お好きなように」そう言って空になったマグカップを手にキッチンに消えた。


その後ろ姿をみながら俺は今日という1日に非常に満足していた。

要はサンちゃんといれれば何だっていいんだよ。






寧ろ内容重視






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