終焉
ゾサ
俺たちが恋人として、一緒に出かける最期の場所を海にしようと言ったのはサンジだった。海の好きな男だと言うことはよく知っていたので、小さく頷いて応じた後はいつも通り、黙って金髪の後ろをついて歩いた。
どこかに行くときは決まってこうした。それも今日で最期なのかと考えていたらもうそこは海だった。
冬の海には誰一人いない。風が強くて寒いので、ダウンのファスナーを首まで閉めた。サンジはコートにマフラーをグルグル巻いて、ポケットに両手を突っ込み猫背気味で前を歩く。寒がりで厚着の癖に、手だけはいつも何もつけない。冷たい手をとって、今年は手袋買えよと言うのが、2人の冬の恒例行事みたいになっていた。
波打ち際ギリギリでサンジは立ち止まる。クルリと振り向いて、「着いた」と一言無表情で呟いた。凍ってしまったかのように透き通って冷たい青色の瞳がここが終点だと言っている。
不意に辺りを探るように見渡して、向こうに歩いていったと思ったら、適当な流木を手にして戻ってきた。屈んでガリガリと砂の上に何か書いていく。2人の相合い傘、幼稚な落書き過ぎて思わず笑ってしまう。
「なんだそれ」
「俺とゾロの相合い傘」
サンジも楽しそうに笑った。
「それって」
「そうだよ、俺たちが高校の時にトイレにかかれたアレ」
「お前ぶちぎれてな」
「お前が関心なさすぎんだ、すましやがって」
「いや、あの後写メした」
「まじか」
そんなん知らねえ!と子供のようにはしゃぐ金髪が、光を反射して目に痛い。しばらく2人で笑いあって、サンジはそれからパタリと電池が切れたみたいに、静かに砂の上へ崩れ落ちた。うわ言みたいに、ぼんやりと、でもしっかり聞こえる声で囁いた。
「コレ消えたら俺たち終わりな」
言ってから、自分で言ったくせに、酷く傷ついたような顔をして俺を見上げる。ジワリとその瞳に薄い水分の膜ができるのを、どこか遠くで見つめているような気分で見ていた。最期まで綺麗な男の瞳に救われた気がする。そう信じたい。
愛していた、愛し合ってた。
これは一生で、でもどうしてか今日で俺たちは最期を迎える。
「消えなきゃいいのになぁ…」
震える小さな声でサンジは言った。
次の大きな波で全て消える。