※転生ねた
(それはほんの一瞬)
「俺は一組の近藤さん。」
「お前はどう思う×××?」
は?何?聞こえなかったもっかい言って。ワンモアワンモア、ふざけた調子で俺は返事をする。目の前友人三人――って言っても同じクラスでよくつるむ奴らの中の一番話さない奴1人とその友達1人とこれまたそいつの友達1人…最早ここまでくると赤の他人じゃん、誰だよお前名前わかんない。北山?北川?え?誰?ワンモアワンモア――は「おま、ばっかじゃねえの、何聞いてんの、ちょっ…!」とかなんとか口々に(若干興奮気味に)言いながらもう一度さっきの話を反復し出した。
「だーかーらー、学年で誰が一番可愛いかって…
ああ、知ってるよそこは聞こえてた。俺たちの学年で誰が一番可愛いかって話だろ?そんでお前は黒髪美人な明石さんで、その隣はちょっと派手めのメグちゃんで、んで北本?北里?はスポーツ少女の近藤さんってわけでしょ。てかお前の名前も何だっけ?わかんなくなってきた、
でも一番わかんねえのは。
「で、お前は誰なんだよ×××」
ほら、な、何回聞いても聞こえねえの。いや、聞こえてんだけどな、頭に入ってこねえってゆうか、うん。
×××って誰だよほんと。俺なの?ほんとにそれ俺の名前?でもこんな違和感何百、いや何千もしくは何万いやもっと、繰り返したからもう慣れちまった。慣れちゃった俺は何でもないように、笑って答える。
「え―、俺はもちろん美幸ちゃん。」
当然大ブーイング、だって美幸ちゃんは今の俺の彼女だから。
「うーわー、惚気やがった!」
「じゃあ×××、俺たちと帰ってる場合じゃねーじゃん!」
「それがさ、コイツの次の駅で彼女の塾終わるの待ってから一緒に帰るんだよ。」
「そーゆーこと、」ニッと俺は器用に口角を上げてプシューと開く電車の自動ドアからスルリとホームに降り立つ。残された三人はぶうぶう言いながらも、如何にも高校男児らしい、よくわからんけど高いテンションで見送ってくれた。
そうだ、俺には彼女がいる。美幸ちゃんって言う髪がふわふわで目がパッチリで、とってもかわいい女の子。うすピンクのマシュマロみたいだと俺は思ってる、あのイチゴ味のやつな。一月くらい前に告白されて、最近やっと付き合った。
とっても可愛い彼女がいて、学校も適当に楽しくて、友人にも困ってない。俺の人生順風満帆、バラ色。じゃあそんな俺を唯一困らせるあの妙な違和感とは何か?
それはズバリ「サンジ」だ。
簡単な話。
俺の中には「サンジ」っていう別人格がいた、物心ついたガキの頃からね。どうやら俺はサンジの生まれ変わりらしいのね。それが日に日に×××(俺の名前ね)より大きくなって、もともとサンジに感じてた違和感が×××への違和感にすり替わっちゃった。
さらにさらに、そいつが過去の恋人だか想い人だかを、最近俺の近くで見つけちゃったからもう大変。
それが美幸ちゃんより10分前にこの駅のホームに現れる、あの男。
ほらな、今日も来た。
視線の先には長身のサラリーマン。スーツの上からでもわかる程良い筋肉のついた体と、端正な顔つきは周りの人間の視線を集めてる。
奴はいつもエスカレーターを降りてすぐの自販機の前で電車を待つんだ。必ず1本電車を見送って、19時21分発の電車の中に消えいくあの背中を見ながら、鼻の奥がツンとして、ジワリと目が熱くなるのに耐える。
こうなるともう駄目なんだ、俺は黙って「サンジ」に身を委ねる。
(ゾロゾロゾロゾロ俺のゾロ!)
落ち着け俺、いやサンジ?なんだ俺のゾロってサムイにもほどがあんだろ!ドコドコうるさい心臓の音はこの際無視だ。だってしょうがないんだ、俺のなかの俺じゃない、「サンジ」が叫ぶんだ。(なんかわかんなくなってきた)言いたいことが山ほどある。ずっとずっとお前を待ってた、
(なあ、ゾロ。)
今日の俺は一味違う。もう見てるだけは止めた。決心はついた、美幸ちゃんとも別れるさ。
だってよく考えたらあいつはどうしようもない迷子ちゃんなのだ。探し出すのはいつだって「サンジ」だったのだから、普通に考えて、こうしたほうが、あいつが俺を見つけだすより断然速いのは当たり前。
わき目もふらずに一直線ゾロを目指す。感動の再会はなににしようか?熱い抱擁?とろけるようなキス?涙涙の甘い囁き?
たまらなくなって走り出す。いつもの電車のドアが開いたんで、俺は急いで奴のスーツの袖を掴んで引き止めた。
そしてそのまま
スパーン!!!!!
ズダーン!!!!!
思いっきり足払いをかけた。
(ズダーンはゾロが無様に倒れた音な)
シーンと静まり返ったホームの中央に、高校生に足蹴にされてるサラリーマン。ムードもなにもあったもんじゃねえ。俺が思ってた以上に、サンジはお行儀が悪かった。
「いつまで待たせる気だ腐れマリモオオオ!!!!!!!!!!!」
チンピラのように柄悪く、俺は額に青筋を浮かべながら言いましたとさ。