「ハイ、これ」
微笑む彼女が差し出すのは小さな紙袋。赤いチェックのそれが、彼女お気に入りの雑貨屋のの包装であることを俺は知っていた。
「え」
さりげなくカレンダーに目を走らせる、しかし空欄。今日は誕生日でも記念日でも休日ですらなかった。ではなぜ??思いあたらないことに焦り始める。彼女のために作った焼きたてのクッキーと淹れたての紅茶はカウンターへ緊急避難。
「やだ、なんでもないよ。ただ気まぐれ。」
俺の困惑に気づいた彼女が笑いながら、俺の手をとって隣へ誘う。大人しくそれに従って二人で選んだソファーに、並んで座った。
「あけてあけて」
促されるまま、そっと封を開ける。
「iPhoneケース?」
「うん」
俺の肩に、彼女が寄り添う温もり。
「いいの?」
「だってサンジ君よく落とすから、ケースボロボロじゃない?そろそろ変えたいかなって思って」

そしたらこれ見つけたの。

得意気に胸を張ってやはり彼女は笑う。よく笑う子だ。可愛い。アイツとは大違いだ。アイツはあまり笑わなかった。いやどうだったっけ?解りづらかっただけで、俺の前ではよく笑ったかもしれない。そうだよく笑った。笑ってた。いやいやでもだからってなんだ。彼女だってよく笑うんだし、何より、俺のことこんなによくわかってくれてるだろ。アイツの隣にいた俺は、こんなボロボロのケースを使い続けてて、つまりはそれを見ても何も言ってくれなかったってことで。そもそも見てなかったんだろうな、俺のこと。しかしだ、

(なんでこれ使い続けてたんだっけ?)

ほんの一瞬浮かんだ疑問に違和感。同時に殴られたような衝撃を伴って心臓が高鳴る。
「●に●ってんだ●、●様●た●●」
穴だらけの音声と思い出せないアイツの表情。グルグル頭の中を回る回る。
「気に●ってんだ●、●様みた●で」
「気に●ってんだろ、模様みた●で」
どんどん鮮明になっていく、アイツの声、顔、温度、

「気に入ってんだろ、模様みたいで」

優しい空気の中で笑うゾロがいた。

「ねえ、話があるんだけどさ」


俺はこれから何を言うつもりなのか。

▼俺の人生詰んだ

 


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