カウントダウン



「おわーおわーおわわわー!」
「ちょっとお、サンちゃん落ち着けよ」
見るからにアホそうな黄色くて丸い小さな後頭部、は、電車の窓にはりついて離れない。食い入る様に窓の外の『アレ』を見つめて、それが通り過ぎてって見えなくなるギリギリまで、おでこをぐりぐり窓に押し付け目で追った。

「悪目立ちだよ俺ら」
やだ〜もう、とかいいながら俺は泣きまねをするのだけれど隣のアホの子には哀しいかな全然効果がないのですよ、ええ全く。なんてったってアホだからね、しょうがないこればっかりは。顔色真っ青のくせに、気が焦ってじっとしていられないのか、ぴょこぴょこ跳ねる姿は一見楽しそうでもある。

「どうわー!!はいった!!はいったよエース!!」
「いつものことじゃん」
「もうしねえって!!言った!!のに!!」
「それもいつものことじゃん」
「約束した!!」

きっ、と俺を睨むその顔がなんともアホ可愛いです今日もね。つーか約束ってアンタ。もう君もいい大人なんだから世間には守られない約束の方が多いってことわかるでしょうに馬鹿このおバカ!くだらないことに付き合わせやがって!と俺はいつも心の中で嘆くんですが。

「うわーうわー早くとまれよクソ電車あ、もう俺ここで降りる降ろして降ろせ」
「もうホーム入ったから、すぐとまるから」
「ぶわあああゾロがもうあの子に入れてたらどおおおおしよおおおおおエースウウウウウウウ」
今度は俺のシャツを掴んで、肩越しにぐりぐりし始めるその黄色い頭をよしよしする。うーん悔しいけど可愛いんだよなあ、にしてもあっちにぐりぐり、こっちにぐりぐり、君いつか禿るよほんと。お兄さんは心配です。
電車が完全に停車すれば、プシューって音とお決まりのアナウンスと一緒にドアが開いた。ぴゃっと、光の速さでサンジは俺の手を引き駅のホームを突っ切っていく、改札を目指す!

「よっしゃ、でる!」
「ヘイヘイ」

ピンポーン、

「おわああああああ」
「金たりねーんじゃんサンちゃん」
「よし、金かせエース」
「ファっ!?」
「財布忘れた」
「キョトンとこっちを見るんじゃないよまったく!こういうときだけ冷静だなお前!」
「いいから!はよう!!入れちまうだろゾロが!」
「さっきから下品だよサンちゃん!」

ダバダバと2人、やっとのことで改札を抜けて線路沿いの道を走る。いや俺は走りたくないんだけどてゆーか今すぐ帰りたいんだけど、サンジ君が手を離してくれないので仕方なくです。まあ浮気現場に好きな子一人で向かわせるってのも俺の良心が痛むんでねえ。
新しくも古くもない、三階建てのアパートの階段を駆け上がる。目的のドアの前に立てば、さっき俺たちが乗って来た電車の線路が丸見えだ。ガタンガタンと耳障りな音をたてて電車が通過していく。ドアの窓越しに乗客と目があったので、一応へらりと愛想笑しておいた。俺ってばほんと社交的だわあ。

「オイ、でてこいクソマリモ!!テメー約束やぶりやがって!!」
「チャイム使いなよ」
「あ、うん」
「ほんとぬけてんなー」

ピンポンピンポンピンポン
サンジが一心腐乱にチャイムを押す。ドアを蹴破るのも時間の問題だ。この後ろ姿を見るのももう何回目かわからない。ゾロの浮気癖は最近になって見られるようになったもんで、それは俺がサンジとつるむようになった時期とぴったり重なる。はいそうです、ゾロの浮気癖、その原因はつまり俺です。気づいてないのサンちゃんくらいですよマジウケる。でも引く気はない。俺だってサンちゃんのこと本気で欲しいし、浮気で愛を確かめようなんざ、ヘボいことする野郎に譲る気なんてさらさらねーの!

いつものごとく、しばらく経ってからガチャリ、とドアが開く。仏頂面のゾロの後ろで困惑してるのは毎回違う女の子。

「あ!!やっぱり連れ込んでやがったこのタラシマリモ死ね死ね死ね!めちゃくちゃ可愛いじゃねえかクッソ!!」
「んだよ、お前だってまた一緒じゃねーか」
そう言ってギロリと俺を睨むので、お返しにニヤリ、挑発してみる。そんな二人のやり取りなんて露知らずのサンちゃんは激怒する。

「は!?何わけわかんねーこと言ってんだオマエ人間語しゃべれや、いや待てとにかくだ!!」

一呼吸置いて落ち着いた、にっこりと対レディ用(サンちゃん曰く)微笑みをはりつけたサンちゃんはグイ、と俺の腕を引く。「とりあえず今日はこっちにしといてくれないかな?」だなんて、そんな酷いこと言われながら引っ張られたんで部屋の中にいた女の子としっかりばっちり目があった。あ、どーもこんにちは。再びへらり、愛想笑い。

「だからマリモは返してくれない?」

目が笑ってないですよサンジ君。そんなところも好きなんだけど。にしてもやっぱり俺の扱い酷いよなあ。仕様がねーので、まあ、今のところはこんなもんで。






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