君に褒めてほしい


「ついてこい」とも、「みせたいものがある」とも言われていない。でも不意に雑踏の中で目があって、ゾロの唇が懐かしい動きで俺を象るのを見てしまったから。その唇をもう一度見たくて、文句もそこそこに俺は飛び出す。(買い出しの途中だったけど、もう金払っちゃったけど。大丈夫だ、あの店の親父、いいやつそうだったから後で)全力で遠くなるその背中を追いかけた。つまりはそう、お前も俺とふたり、誰もいないところへ行きたかったんだろう?だからごった返す人混みに紛れて狭い路地を通り抜けて、最終的にこんな花畑だなんてクソ似合わねえところに飛び込んだ。迷子のくせに、迷わず飛び込んだ。(わかってんのお前、俺が追いかけんのやめたら晴れて花畑迷子だぜウヘエ、メルヘン似合わねえ!)ピンク白オレンジ赤黄色いろんな色が俺の頭の中でマーブル模様みたいに混ざり合って溶けていく。溶けだしたその色たちが両目の奥の方に染みわたって暖かい。なのに空は嘘みたいに冷たい真っ青でそれが一層目に気持ちいいんだ。前を走るゾロもそうであって欲しいと思っていたら、突然アイツは振り返った。花が邪魔してゾロの顔がよく見えないのがもどかしい。俺から手を伸ばすまでもなく、ズイとどこからか現れたヤツの右手に引き寄せられる。それでやっとゾロの顔を見ることができた。ああ、いつもより両目が潤んでいるように見えるのは光の加減か俺の気のせいかそれとも。
(コイツにも、あったかい色が浸み込んだのか)
はは、と俺は切れ切れの呼吸の合間に上手に笑う。ゾロは俺より下手くそに、ニヤリと笑った。それが可笑しくてまた俺は笑う。笑いながら、少し乱暴にゾロの両目を擦ってやった。ゴシゴシ、ゴシゴシ。拭くもんねえから、ちょっと不本意ではあるがスーツの袖口で。それは予想外の行動に面食らったゾロの両手が、俺の両手を掴んでやめさせるまで続いた。無意味な押しもんとう、掴まれた手首がすごく熱い。
「な、んだよ痛ぇからやめろ」
「泣いてんのかと思った」
「ああ?誰が」
「お前が」
はあ?なんで。そう言って俺を覗き込んだゾロは困ったように頭をかいた。ああ、この癖、そうコイツ困った時はめんどくさそうに頭をかくんだ。めんどくさくないときでも、照れ隠しみたいに。そんでしょうがねえなあ、って目で言って俺を見る。剣士の全然優しくねえ、人殺しの手で、優しく俺の髪をすくんだ。全部二年ぶりのお前。
「だってお前の顔、歪んでぐちゃぐちゃだぜすげーぶっさいく二年で俺のダーリンは劣化しちまったのかこりゃだいもんだいだ要相談だ」
「劣化言うなあほ、そりゃてめーが泣いてるからだ」
(ああ、やっぱり)
泣いていたのは俺だった。今気づいたけどなかなかひどいもんで大洪水。目の際でぶわりと膨らんだ水滴があったかい涙になってボロボロこぼれ落ちる。「もったいねえからやめろ」とゾロは少し怒っているみたいだった。俺よりも涙を拭くのが下手くそで、まったくほんとどうしようもねえ!「もったいないってなんだよイミワカンネ」嗚咽でひきつりながらも俺のアイデンティティーである反論は忘れずに。

「てめーが泣いてんの初めて見た」
「うるせー茶化すな嫌なマリモだな」
「茶化してないだろ」
「嘘つくな芝生頭」
「嘘じゃねえ、お前やっと、俺の隣でも泣けるようになったんだな」

人の気も知らないで暢気なクソマリモは嬉しそうに俺の頭を撫でる。一緒にできることが増えたな、だなんてそんな。ああもうバカじゃないか。そんな簡単なことじゃねえんだよ馬鹿、この脳筋ばか!!でもいいよ、今は。んなことどーでもいいんだ。

「そうだよ俺、二年でお前の隣で泣けるぐらい強くなったんだ舐めんなマリモ」

(だからもう一度、お前の隣を歩かせて)





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