世界も涙も強さも忘れて
素敵なあなたに笑われたいよ
いつか海に還るために
ゾサ
べったりと全身にこびりついた血をゾロはまじまじと見下ろした。当然これはゾロの血なんかじゃない、返り血だ。今さっきやりあった海賊達の血。その証拠に見渡せばしっかりそこは死体の山だった。不思議な奴らだったな、と思う。いつもならこんな力の差が歴然とした相手を殺すなんてことしない。的確に全員に峰打ちして気絶させて終わり。大抵そうしてやれば刃向かってくるやつもいないのだ。命が惜しいのだろう、気配で分かる。
でも今回は違った。刃向かってきて、気配が、ゾロを殺すまで、ゾロに殺されるまで、終わらないといっていたのだ。だからそれに応えた。それが礼儀で、こういう者が自分を強くする一部になるのだと思ったから。貪欲に、軌って殺した。
「よお、派手にやったな。」
上から声が降ってきたと思ったら、次の瞬間にはもう隣に声の主は立っていた。
(気配消してやがった)
気づかないなんてまだ自分も修行不足だ、そう一人ゴチて眉をひそめる。微かに金髪が笑ったためか、空気が揺れるのを何故か呆けた頭で認識した。
隣に並んだゾロとさして変わらない身長の男は、ゾロの視線をたどり同じように今のこの惨状を見渡す。
「お前血ぃヤバいよ。」
瀕死?ふざけたようにサンジが呟いて、それにあわせてタバコの煙がふわりと揺れた。
「俺のじゃねえ。」
「しってる。」
「お前だって。」
「ん?」
「脚ヤバいだろ。」
ゾロがチラリと視線を下げれば、サンジの赤黒く血に染まった右脚が足元に小さな血だまりをつくっていた。
「俺の血じゃねえよ。」
「だろうな。」
「今日のはヤケにしつこかったなァ」
面倒臭そうにサンジはぼやいた。ゾロは短くなったタバコが、靴底で踏みにじられるのをなんとなく見送ってから口を開いた。
「けど、」
「は?」
「お前は殺してないんだろ。」
自分の口から出た言葉について何も思わなかったと言ったら嘘になる。つまらないことを言ってるくらいの認識はあった。だけどその裏に何かを意図していたとかそんなものはないはずだ。それなのに金髪は、思いの外大切にその言葉を拾って、ゾロの思う場所に還っていくようにしてくれた。小さくゾロに向かって呟く。
「それがお前で俺なら、しょうがねえよゾロ。」
コツン、と男の小さな額がゾロの額にぶつかって、そろりと慰めあうように互いの睫毛が重なり合う。あっさりサンジは離れていって、それからとても優しい顔で笑いながら言った。
「お前もバカだねえ」
むせかえるような血のにおいと青空とサンジの金髪。どれもちぐはぐで不自然だ。雲一つない青空は何処までも続くし、果てなんかない。この青空が続く先にいつかの自分の夢がある。
曲:あなたmagic引用