さよなら愛してくれたひと




夏休みの終わり、ガキの頃の話だ。さんざん夏の間遊びまくって、日焼けで火照った肌を寄せ合いながら俺たちはひっそりと息をひそめる。社宅の古いアパート、一階のベランダの下。そこは花壇でもないのに、いつも死んだ球根がいっぱい散らばっていた。その頃はにんにくか何かだと思っていた。ままごとでは、サンジに玉ねぎとして食卓に出されたこともあった。しかしあれは球根だ。今ならわかる。
こども二人がやっと納まるほどしかないが、外からは意外にも死角になるそこは俺達のお気に入り三位の秘密基地だった。俺の家もサンジの家も二階だったからか、一階に誰が住んでるのかは知らなかった。今も知らない。二人はワザと大げさに口元を押さえこんで顔を見合わせる。なにがおかしいのかわからないが、そうすれば決まって笑いがとまらなくて、それが俺達を一層魅了した。こどものツボはよくわからないもので、それは今もわからない。それでも治まらない笑いにしばらく肩を揺らしながら、唐突にサンジは長くゆっくり息を吐くのだ。はっとして俺は笑うのをやめて、隣のサンジを静かに見守った。しーっとサンジは立てた人差し指を唇にくっつけてやけに真剣な顔をつくる。こくりと、俺が静かにうなずけば、サンジは決まってこういった。



酷いことすんな、と思った。いやもしかしたら口に出ていた。その証拠に薄い唇の端を僅かにあげたサンジは幸せそうに俺を見ていた。笑っているようで笑っていないサンジの周りには、さっきまでコイツと繋がっていた無数の管が散らばっている。コイツを生かす機械と繋がるこの管を、自分自身で一本一本丁寧に抜いていったのを俺は黙って眺めていた。あの頃と同じだ。俺は息を殺してじっとサンジを見守る。
今じゃ心臓に繋がる管が一本残されているだけ。あの管が引き抜かれる瞬間が目に見えるようだ。多分最後の言葉とそれは重なる。
支度が整ったサンジは最後に乱れたシーツをひと撫でしてきちんと皺をのばした。とてもコイツらしい仕草だった。

懐かしい動きで立てられた人差し指は唇へ。ツンと鼻の奥を刺す、あの日陰の匂いが確かにした。あの頃より低いはずのサンジの声は、あの頃と同じ響きで俺に問う。ならば俺も、コイツとともにあの日へ戻るしかないのだ。

「ちゃんとおれのことすきか?」
「うん」

こどものままの俺を遺してお前はいってしまうのに。

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