難しい正義なら捨てちゃいなよ



紫原に声をかけたのは彼が俺の愛しの真ちゃんの元チームメイトだったからだ。それ以外の理由なんてとくにない。コミュ力の高さを俺は自負しているが、気に入らない人間にヘラヘラ愛想をふりまくほど可愛い人間でもないのだ。キセキの世代はぶっちゃけ気に入らないが、我が最高のエース様のチームメイトというなら話は別。好きな子の知り合いの前でわざわざ性格悪いの晒す馬鹿なんていないっしょ?

他愛のない話をした。案外紫原は人懐っこく(まあ多少ダルそうであったがそれはお互いさまだ)共通の知り合いもいるってことで問題なく会話は続く。お互いそれほど興味もないので、じゃあそろそろさいなら、って空気になった時、ほんとーに気まぐれだが、ほんとーにふと思ったことが俺の口をついて出た。

「君は赤司とかゆーやつの言ってること、全部正しいと思ってたの?」

言ってから俺は「あーこれ言ったらまずいヤツかなあ…」と少しだけ暢気に思ったりした。これコイツ怒んじゃねえ?どーしよ殴られたりとか、俺死亡。でも、したら真ちゃんコイツと縁切ってくれたりとか……ねーな。「むしろよくやったのだよ紫原」とかふつーに言いそうだろ。ハイタッチしちゃうよハイタッチ。と半ば投げやりになっていると存外無邪気に、そして意外な答えが紫原から返ってきた。

「んな訳ないじゃーん」
「え、つーか軽っいな」
「俺だって赤ちんが言ってることが無茶苦茶かそうでないかくらいわかるし〜、ばかにしないでよねえ」

そう俺に話す紫原はどこか得意げにも見えた。例えるなら、子供がお気に入りのおもちゃを自慢するときとか、そーゆー感じに似ている。もしくは戦隊もののヒーローとかそんなん。邪気がなくて、それが俺には一層違和感で。紫原は当たり前みたいに言う。

「赤ちんが言うことは全部は正しくないけど、赤ちんが言うならそれは全部正しいことになんの」

満足気な紫原は舐めていた飴を俺に見せつけるように、真っ赤な舌でゆらりとなぞる。一瞬固まった俺を、ぞわわっと得体のしれない何かが通り過ぎていくのがわかった。はー、なるほど。へー、そゆこと。俺はひとり納得する。それから自分でもちょっと反省するくらい下衆な笑顔でその日初めて本気で笑った。

「アンタ結構いい性格してんね」
「えーアンタに言われたくないし、みどちん中々趣味悪いよねえ」
「ひっで!」



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -