AM 04:06


肌寒さを感じて目が覚めた。眼鏡がないので手探りで携帯を探す。携帯をワザと枕元へ埋めるようにして放置するのは高尾の悪癖だ。だらしがないからやめろと、もう何度も言っている。しばらく感覚だけでシーツに手を這わせていると、指にあたる冷たい感触があった。持ち主は絶賛爆睡中だが、そんなのお構いなしに勝手に電源を入れる。淡い光が目に痛い。少しだけ、隣の恋人を起こしてしまうのではないかと気になったが、それよりも今が何時なのか知りたい気持ちが勝ってしまった。起きたら起きたである。

時刻は4時6分。窓が開けっぱなしにされているせいで、カーテンが時折風に揺られてふわりと浮き上がる。そのわずかな隙間から、まだ夜の明けきれない薄い水色の空を見た。
同じ水色だというのに、昼間の空の水色とは随分感じが違う。何故なのか。幼いころからの疑問だったそれを、人に打ち明けたのは高尾が初めてだ。聞かせる気などこれっぽっちもなかったのに、何故だか知らず気づいた時には口走っていた。なんて子供臭い疑問だろうかと笑われるのを覚悟していたのに、相手の反応は存外自分を困惑させるもので。
あの時の高尾の目は、自分で言うのもなんだが、本当に愛しそうに俺を見ていたから。「俺もそう思ってたからお揃いじゃん」そういって嬉しそうに笑う高尾から目が離せなくなったのだ。


どこか遠くで車の走る音がする。何故かそれが揺れるカーテンと重なって海のようだと思った。そう言ったら隣の男はなんと言うだろう。呆れるだろうか。それともまた笑うだろうか。気恥ずかしいから絶対に言わないが。

「早起きだね真ちゃん」

不意に浮かび上がってきた声は寝起き特有の気だるさを伴っている。結局起こしてしまったらしい。睡眠を邪魔したことを謝る気はこれっぽっちもないが、若干の迷いがあって、のばされた手を振り払うタイミングを逃してしまった。そのまま抱き寄せられてキスをされそうになる。黙ってされるのも癪なので左の掌でそれを阻止してやると無念そうに高尾は唸った。ああん、とかううん真ちゃんのいけず、とかなんとかほざいている。

「朝っぱらからキモいのだよ高尾」
「いいじゃん、イチャイチャした夜の次の朝くらいデレててよ」
「意味がわからないのだよ!」
「スキあり」

いつの間にやらガードをすり抜けた高尾に何度もキスを落とされる。瞼、耳、首、そして最後に唇。ゆっくりゆっくり時間をかけて。今度は黙ってそれを甘受しつつ、思う。気づくだろうか、もう時間はあまりない。

そこでふと、高尾の動きが止まる。すっと目を細めて、俺の肩越しに窓の外を眺めた。なぜだかわけもなく心臓が高鳴るのを痛いほど感じつつ、その時のため耳を澄ます。座り直したせいで、高尾の自分より熱い体温が離れていくのを少しだけ、惜しいと思った。「ねえ見てよ真ちゃん」そう言いながら窓の外、高尾は天に向かって指をさす。あの日と同じ笑顔で笑った。


「俺と真ちゃんの色じゃん」



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