渡邊→謙也→財前
大量の答案用紙を見つめては溜め息を漏らし、そしてまた赤ペンで正誤の判定をしながら溜め息を漏らす。
この時期に行われる期末考査は生徒にとっても好ましいものではないだろうが、俺たち教師にとっても面倒で、とてつもない体力を消耗する。
勤務時間中に全ての解答チェックをすることは不可能に近い。しかし考査後の直近の授業では返却をしなければならないのだから、この時期、全ての教師は残業か持ち帰り残業になる。
気が付けば外は暗くなっており、考査期間で全ての部活停止、学校内に生徒の気配はない。
職員室では至る所で、紙とペンの擦れる音と溜め息が交差していて、それだけで気が滅入ってしまいそうだ。
「渡邊先生」
隣のデスクに座る、隣のクラス担任が俺の名前を呼ぶ。反射的に顔を上げると首に激痛が走った。
「コーヒー淹れてきますけど、先生もいります?」
「せやな、そろそろ休憩せな頭おかしくなりそうや」
「じゃあ渡邊先生の分も淹れてきますね」
ギギッと椅子を軋ませて彼女は立ち上がって、給湯室へと向かった。彼女のいぬ間にデスクを覗き込むと彼女の担当している国語の答案用紙が山のように積んであり、俺はなんとなく、本当になんとなくだけれど、教師という同族として彼女を特別に意識し始めた。
(120710)