企画/ネタ | ナノ

蓮巳敬人

卒業証明書の入った筒を手に片手で眼鏡を持ち上げながら天祥院先輩と話し込んでいる彼を見付ける。

ほんの少しの弱々しさはあるもののたくましいその背中へと向け、体当たりとも呼べる程の勢いで抱き着いた。

「敬人先輩っ!」

「ぐっ…!なまえ‥!おまえは毎度毎度、どうしてそんなに俺を怒らせたがる。
今日で卒業だというのに、まだ説教され足りないとでもいいたいのか? まったく、度し難い」

「私だって先輩が卒業するという事実に度し難いですよー」

「使い方がなってない。いいか?まず度し難いという意味はだな…」

いつものように説教が始まりそうな敬人先輩を見兼ねてか、なまえに気を遣ってくれたのか、天祥院先輩はにこりと微笑んだ後、fineのメンバーの元に行った。

「あっ! そんな事より先輩、卒業おめでとうございます」

「そんな事とはなんだ。…だがまぁ素直に礼はいっておこう、ありがとうなまえ」

素直にお礼をいう先輩の頬はほのかに染まっており、照れ隠しか否か眼鏡を持ち上げた。
…いつもこうなら可愛いのに。

「…もう先輩とこうして仲良く話す事もなくなるんですね」

卒業。
それはつまり、学年の違うなまえと敬人先輩との別れを意味する。
会おうと思えば会えるのだろうが、片や学生、片や芸能界に身を投じるアイドル。
容易に会う事は出来ないという事は重々理解していた。

「ふん、何をらしくもなくしょげているんだ。貴様が俺のモノになれば、何時でも会えるだろう」

…………………………え?

「なんだ、俺が気付いていないとでも思っていたのか? 貴様は態度がバレバレだ」

ふふん、と勝ち誇った様に笑みを浮かべる敬人先輩。
これ勘違いだったらめちゃくちゃ恥ずかしいですよ、先輩。
けれど、なまえがこんな頭激固ドシガタ先輩に想いも寄せていたのは紛れもない事実。

「返事はもう決まっているのだろう?なまえ」

…あぁ、これだからこの先輩には敵わない。

言葉にしない代わりに先輩の懐に思い切り抱き着いた。

上の方では「いきなり抱き着くなっ!」とまたもや眼鏡を持ち上げている先輩がいた。


Fin.

【度し難い】ど し がた い
済度(さいど)し難い。救いがたい。道理を言い聞かせてもわからせることができない。

〈コトバンクから引用〉

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