▼ 控えめに言っても可愛い
「あー、嬢ちゃんちげぇよ、ちゃんと手は猫の手だ」
差し入れのレモンのはちみつ漬けなどは作れるようになったものの、料理の腕は半人前のなまえは学院の厨房にいた。
「こう、猫の手。手を丸めて、添える」
そう言って手を握り、見やすい様にと丸めた手を顔の横辺りに持ってくる鬼龍先輩。
…先輩、無意識でしょうけど、猫のポーズになってます…!
強面な先輩に猫のポーズというアンバランスさに思わず頬が緩んてしまった。
「どうかしたか…? 嬢ちゃんが教えてくれって言ったから付き合ってんだ、しゃんとしろ」
そう、なまえは料理上手な鬼龍先輩に教えを請い、二つ返事で承諾してくれた先輩とこうして厨房に居る。
「にしても嬢ちゃんは相変わらず頑張り屋さんだよな。 もっと料理の腕を磨きたいんですって皆の為になんだろ?」
なまえの横につき、怪我をしないようにと手元を見つめつつ先輩が問う。
「私に出来る事なんて、それぐらいしかありませんから」
「そんな事ねぇよ、嬢ちゃんの頑張りに救われてる奴は、この学院にはわんさか居る」
「そうでしょうか…、そうだと嬉しいんですけど」
苦笑を浮かべるなまえの手を先輩の大きな手が覆い被さる。思わず手を止め先輩を見上げた。
「こんなに頑張り屋さんなんだ、俺だって嬢ちゃん見てて頑張らねぇとなぁって思ってる」
いつもシワの寄った眉間は和らぎ、かすかに口角を上げ微笑みかける先輩。
見慣れぬ表情に目を逸らしてしまった。
「え…あの、先輩。手、が…」
「ん?あぁ、悪い」
悪びれる様子もなく手を退かす先輩。
「鬼龍先輩の力になれているのなら、なにより嬉しいです」
あまり考えずに発した言葉。
「ははっ、ありがとさんなぁ」
先輩の方をちらりと横目で見ると、何故か耳が赤くなり、照れ笑いの様な笑みを浮かべていた。
見慣れないその表情にまたもや目を逸らす。
…今日の先輩心臓に悪い。
Fin.
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