Short | ナノ

April Fool


「やあやあ、おはようございます、なまえさん! 今日から貴方のではなくなる日々樹渉です♪」

「おはようございます、日々樹先輩」

「おやぁ〜?何かツッコミどころがあるとは思いませんか!」

「特にないですね、朝からうるさいなって事くらいしか」

「相変わらず手厳しいですねぇ、私はそんな貴方が大好きですよっ♪」

「それはどうもありがとうございます」

朝から出会うなり鳩やら旗やらを制服から出してはいつもの笑顔で声を掛けてくる日々樹先輩。

「先程私は『貴方のではなくなる』といいました」

「そうですか、元々先輩は私のではありませんけどね」

「ええ、この度私! 告白というものをされまして! その方とお付き合いすることになったのです!」

へぇ、そうですか。

…………………え、ちょっと待って。今なんと言いましたこの変態仮面。

「先輩みたいな変態仮面が女性とお付き合いなんて出来るんですか?」

「本音が駄々漏れですよなまえさん! 日頃私の事をそんな風に考えていたんですね!」

まともに話の通じないこの変態仮面が女性とお付き合いするなんて考えられなかった。

「感想はそれだけですか! なまえさん!」

「え、まぁ。おめでとうございます」

「おーう、違うのですよなまえさん! もっとこう、残念そうにしてはいかがですか!」

いや、意味が分かりませんね。何で残念そうにする必要があるんでしょうか。

「まぁその話は置いておきましょう! 今日はエイプリルフールですね!」

…ぽんぽんと話が飛ぶなぁ、この人。

「そうですね。それがどうかしましたか」

「先程の私のお付き合い云々の話は嘘です♪
どうです!驚きましたか?」

「…多少は」

「私の最愛の貴方に嘘をつくなど心が痛みましたが、貴方からの愛を確かめたかったので、つい」

「そういう事は簡単に言わない方がいいですよ、先輩、顔は格好良いんですから本気にする女の子も出て来ると思いますし」

「顔は!
おやぁ、私は貴方になら本気でとっていただいても構いませんよ、私は貴方を愛していますから」

そういって先輩は長い髪を揺らしながらなまえの前に跪き、手を取ってはなまえの手の甲へと唇を寄せる。
そう、まるで王子様がお姫様にするかのように…

「誓いのキスです、私の愛しき貴方への」

微かに上目遣いになりながらウインクを飛ばす日々樹先輩。

思わず頬が朱に染まってしまった。

「ふふっ、可愛らしいですねぇ。顔が真っ赤になっていますよ」

「…それも、エイプリルフールの嘘なんですよね?」

「さあ、どうでしょう! 真実は私しか知り得る事ができませんからね☆」

すっかりいつもの調子の日々樹先輩。




嘘か本当かなんて、まだ知り得なくていい。



Fin.

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