▼ ご褒美
「あ〜っ! もう、疲れました…。先輩、そろそろ休憩にしましょうよ〜」
なまえは一つ上の瀬名泉と付き合っている。
テストを間近に控えた土曜日、部活動もユニット活動も休止で勉強に専念するしかない。
珍しく瀬名先輩からの誘いで、先輩の家で勉強会を開く事となった。
かれこれ2時間程無言のまま二人して教科書とノートと向かい合っていたのだが、集中力の切れはじめたなまえはそう提案する。
「ちょっとぉ、まだ二時間しかしてないでしょぉ?もう少し集中できないわけぇ?
これだからバカは嫌なんだよねぇ」
その言葉に少しムッとする。
「これでもクラスでは頭いい方なんですよっ! 北斗くんの次くらいには」
と胸を張りながらそう言い返す。
「ハイハイ、分かった分かった〜。
あー、もうっ! なまえのせいで集中力切れちゃったじゃん。 しょうがないからちょっとだけ休憩〜」
だらんと脱力し、ベッドに背を預ける瀬名先輩はなまえに向け手招きをする。
素直に横に並び、同じ様に背中をベッドに預けると、先輩の腕が肩を抱き、その手で顎を無理やり掬い上げられ、端正な顔と向かい合わされる。
澄んだブルーの瞳となまえの瞳が数秒交わった後、先輩は長いまつげを伏せた。
(あ、キス…)
そう思ったなまえも同じ様にまつげを伏せる。
数秒後に唇に先輩の熱が伝…って来ない。
おかしいな、と思いながら双眸を薄く開けると、目の前には口元に手を当て、笑いを堪える先輩の姿が…。
「なっ…、ななっ…!」
恥ずかしさのあまり、思わず先輩の手を払い距離を取る。
「なまえってば可愛いねぇ〜?俺にキスされるかと思ったの〜?」
語尾を伸ばしニヤニヤとしながらそう尋ねる先輩は悔しくも格好良い。
「思ってませんよっ! もうっ! 休憩終わりですっ!」
一人期待してしまった恥ずかしさに早口でそう巻く仕上げるかの様に言うと背を向け、立ち上がろうとした。
すると突然腕を引かれバランスを崩し、先輩の膝の上に背中を乗せるような体勢になってしまった。
なまえの前髪を数回掻き分けた瀬名先輩は額に形のいい唇を押し当て、先程とは違った、妖艶な笑みを浮かべる。
「今回のテストで、その北斗くんってのに勝てたら今度はちゃあんと、唇にしてあげるからねぇ〜」
その言葉にぴしっと固まった後、顔を赤らめながら「要りませんっ!」と拒否するも、なまえが北斗くんに勝つべく、以前では考えられない程猛勉強をしたのは言うまでもない。
Fin.
← |
→
Main
Top