Short | ナノ

Fragrant olive.

秋分も過ぎ、秋の半ば。
この時期になるといつも鼻先に残る様なあの甘ったるい香りが漂い出す。

いつものように朝の日課であるレオンの散歩をしていた時、ふと甘い香りが鼻に付いた。
俺様は人一倍鼻がいいからよ、僅かな匂いでもすぐ感じ取っちまうんだ、なんてったって俺様は孤高のウルフだからな。

しかしまぁ、なんて甘い。
甘い物を得意としねぇ俺様にとっては不快になる以外何者でもねぇ。
その筈なんだが、どこかで嗅いだ事のある甘ったるい香り。

いつどこで嗅いだのか、頭に疑問符を浮かべながらも学院内でも時折香るその香り。
どうも嫌いにはなれなかった。

「お、もう金木犀の咲く時期か〜。甘い匂いしてんなーと思ったら、原因はコレだったわけだ」

同じクラスの衣更のヤロ〜が窓の外を眺めながらそう口にした。

あぁ、なるほど。朝から香る甘ったるい匂いは金木犀ってやつらしい。

毎年香るその匂いに身に覚えがあっただけなのだろうかと、軽音部の部室へと足を進めていた時、男だらけのこの学院に似つかわしくない少し高めの女の声が響いた。

「大神くん!」

細い腕に沢山の資料を抱えたなまえが小走りで駆け寄って来る。
俺様の前に足を止めた途端、ふわりと香る、この時期あちこちで鼻に付くあの甘ったるい香り。

「えっとね、ライブについての資料をいくつか持ってきたから、UNDEADのメンバーが…大神くん?」

気付けば俺様は腰を屈め、なまえの首元に鼻先を寄せた後小さく香りを嗅いだ。

思った通り、こいつと同じ匂いだったっつーワケか。至近距離で数回嗅いだ後、屈めていた腰を元に戻すと、目の前には真っ赤になったまま微動だにしないなまえの姿が。

「…オイ、どうしたんだよ。俺様に何か話があったんじゃねぇのか」

ハッとした様に肩を跳ね上げたなまえは赤い顔で俺様を睨み付けた。
はっ、その身長で凄まれても怖かねぇっツーの。

「お、大神くんの発情犬っ!」

「…はぁ?!何言って…、ツーか俺様は犬じゃなくてオオカミ、ってコラっ!待ちやがれ!!」

猛スピードで駆けて行ったなまえの後ろ姿をぼんやりと眺めた後、またもや甘い匂いが鼻に付く。


俺様甘いのは好きじゃねぇんだがよぅ、アイツの香りに包まれるこの時期は嫌いじゃねぇかもしんねぇな…♪





そんなワンコはまだ初恋の香りを知らない。



Fin.


〔金木犀の花言葉〕謙虚、初恋、気高い人


|

Main
Top