Short | ナノ

おじいちゃんは第一ボタンまで閉めてほしい

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なまえ様≠あんずちゃんです。
貴方は普通の女子高生設定です。


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「暗闇の中に、赤く光る眼…、そしてにんまりと笑顔を浮かべた口元から覗く歯はやけに尖っていて、…そう、彼女が出会ったのは吸血鬼だったのです」

友達と学校で雰囲気を作り、話を始めてから既に2時間は経っていた。

辺りはすっかり薄暗くなっていた。

(やだなぁ、私の家遠いのに…)

おそらく家につく頃にはもう真っ暗なのだろうと一人悶々としては友達と学校を後にした。





友達と別れ一人帰路に着くも、案の定辺りは暗闇に包まれている。
先程までの話を思い出し、頭を振った。

(怖くない怖くない怖くない怖くない…)

それにしても、やけに静かだなぁ、車も人も通らないなんて。

響くのは己の足音のみ、だと思っていた。

いつからかなまえの足音に紛れて、もう一つ足音が聞こえて来る。心無しか段々と近付いて来ているようだ。

前にへと目も向けるも人の気配はない、なら後ろ…?

そう思って肩越しに目線を向けると暗闇に光る赤い…目?

友達との話を思い出した、急ぎ足で歩数を増やす。しかし後ろの人物も更に歩くスピードを早めて来た。

不意に肩に手が置かれ、歩みを止めさせられては暫しの沈黙が走る。
恐る恐る振り返ると、真紅の瞳と視線を交えた。

「これ、嬢ちゃんや。落し物じゃぞい」

差し出されたのはマスコットキーホルダー。
カバンから落ちたのだろうか。
真紅の瞳を持つ人物は、とても綺麗な顔をした男の人だった。

「え、…あっ、すいません。ありがとうございます」

「こんな時間に女の子が一人とはいただけんのぉ」

えらく年寄りじみた口調でそう言う目の前の綺麗な人物は形の良い唇から赤い舌を覗かせた。その際に見えた、尖った歯。
…まさか、ね。

「どれ、我輩が送って行ってやるとするかの、家はこっちなんじゃろ?」

最初の内は出会ってばっかりの彼にそこまでしてもらう訳にはいかないと頑なに拒んでいたのだが、押しと自分好みの綺麗な顔に負け、送ってもらう事になった。

家に着くまでの間、色々な話を聞かせてもらった。
アイドルの卵である事、弟が冷たいという事。
そうこう話している内にあっという間に家に着いてしまう。

「ありがとうございました。」

一言礼を添え、家の中へと入ろうとしたなまえの肩をグッと掴まれる。
何だろうと振り返った後、目眩がした。
端正なお顔が目の前で妖艶に微笑を浮かべている。

「1つ、言い忘れておった。
…男の、しかも我輩の様な吸血鬼の前で、首筋を晒すのは止めた方がよいぞ」

首筋を晒すと言っていってもブラウスのボタンは一つしか開けていない。

これが普通なのだと言い返したかったが、彼の赤い瞳に捕らえられ、声が出なかった。

そんな彼の顔がなまえの首筋へと埋まり、鋭い歯が当てられると、ぷつ、と皮膚が裂ける音が耳に届いた。

固まったように動けなかったなまえはその音を聞くとハッとし、彼の肩を押し身体を離す。

全く動じる事無く微笑を携えたままの彼に背を向け、歯の当てられた箇所を押さえながら部屋の中へ飛び込んだ。

…何、今の。

自室で鏡に映った己の顔はなぜか紅く染まり、不意に首筋に目を移すと、そこには2箇所ほど小さな点となり、赤い血の滲む噛み跡…。

あの人、やっぱり吸血鬼…だったんだ。

そんな吸血鬼となまえが恋に落ちるかどうかは、それはまた別のお話。


Fin.

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