▼ 1.おじいちゃん
「嬢ちゃんや、嬢ちゃんや」
「…。」
「嬢ちゃんや、嬢ちゃんや」
「…。」
「嬢ちゃんや、嬢ちゃんy「あぁっ! もうっ! しつこいです! なんですかっ!」
「おぉ、怖いのぅ。そんな顔をしておったら可愛い顔が台無しじゃぞい」
なまえは軽音部の部室に来ていた。
なぜなら、会いたくもない朔間先輩に呼ばれたからだ。
「我輩喉が乾いたのぅ。嬢ちゃんや、ちょいとトマトジュースを買って来てくれんかのぅ」
「…自分で行って下さいよ、おじいちゃん」
「これ、聞こえておるぞ」
小さな声でおじいちゃんと言った言葉を拾われ、指摘される。
渋々重たい腰を上げ、トマトジュースを買いに部室を後にする。
このままバックレたいが、そうもいかない。
なぜこんな事になったかと言うと、事の初めは瀬名先輩に想いを告げてからだ。
…
「好きです、瀬名先輩」
「…はぁ?アンタみたいなのが俺につり合うとでも思ってるわけ?鏡で自分の顔ちゃんと見て来なよぉ。
でもまぁ…アンタの事は嫌いじゃないし、別に…ってちょっとぉ!」
先輩の言葉を最後まで聞く事なく、なまえは駆け出していた。
元々叶うわけないし、断られても仕方がないと思っていた。
けれど実際に本人の口から言われると、流石にダメージは大きかった。
頬を伝う涙が、いかに先輩の事を好きでいたかを思い知らせてくる。
「好きっ、です…瀬名、っ先輩…ぅ、っう」
泣き声と嗚咽が交じった言葉。
「…ほぅ、これはいい事を聞いたのぉ」
背中から艷やかな声が聞こえたと同時に、影が出来る。
涙で歪む視界を背後の人物へと移すと、そこには悪戯な笑みを浮かべた吸血鬼が一匹…。
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