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11.デッドマンズ

「…え?」

頭の上で響いた朔間先輩の声を自分自身の中で反芻させる。

感情が高ぶっているせいか、その言葉の真意を読み取る事は出来ない。

「なまえの泣き顔を見るのはこれで2回目じゃが、そのどちらとも我輩以外の男が原因なのは少しばかり腹立たしいの」

先程の言葉とは繋がらない言葉に先輩の胸元から顔を上げた。
すると頭に回っていた手は力を緩め、代わりに長い指がなまえの耳を伝い、輪郭をなぞる。

朔間先輩は少しなまえの首元をくすぐった後、両手でなまえの頬を包み込み、顔を上げさせた。

漆黒の夜空を背景に先輩の真紅の瞳が鋭く光る。
すると、重力に伴って目に浮かべていた涙は再び頬を伝い落ちた。

「可愛らしくて、つい苛めたくなってしまう様な泣き顔じゃ」

段々と近づいて来る紅い瞳、逃れようにも頬に添えられた手の力は思いの外強い。

少し顔を反らし、目を強く瞑ると生暖かく、柔らかな感触が目尻に走った。

「うむ、我輩血はうぇっとなって駄目なんじゃが、嬢ちゃんの涙の味なら好きじゃの」

ああ、理解した。触れたものは先輩の唇と舌だったんだ。
有無を言わさず成される行動と言動に、熱が上がる。

「愛らしいの、泣いたかと思えば今度は真っ赤になりおって。嬢ちゃんは本当に見ていて飽きんわい」

「…からかいたいだけなら、もう帰してください」

瀬名先輩への想いを再確認させられたかと思えば今度は私をからかうこの吸血鬼の考えている事は一向に理解出来ない。

「…俺じゃだめかと聞いただろうが」

今度は首筋へと顔を埋めた先輩は私の寝間着越しに鎖骨に噛み付いた後、少しずつ位置をずらし、喉、顎先、頬、瞼へと短いキスを繰り返す。
突然の事に先輩の肩を押し、抵抗の意を示すも全く意に介さない。

「せん、…っぱい、やめ…っ、」

「お前が欲しいんだよ、なまえ。俺なら泣かせねぇ、お前の泣き顔は好みだが、好きな女の悲しみに暮れた顔なんざ見たくねぇんだ。泣かすならベッドの上で啼かす」

口付けの合間にそう言葉を残してはなまえのボタンに手を掛けた。

「まぁここはベッドの上じゃねぇがな」

そう言った後噛み付く様に唇に吸い付かれた。
見開いたなまえの瞳に映るのは長いまつげを伏せた朔間先輩の端正な顔。

嫌だ嫌だと体を離そうと力を込めるも、所詮は男と女、敵うわけがないのだ。

空気を求め薄く唇を開くと、待ってましたとばかりにすかさず生暖かい舌がなまえの口内へと潜り込んで来る。

先輩は顔を倒し、舌先を器用に使い私の舌を引きずり出すと、お互いの唾液を交換し合いながら舌を絡める。

酸欠からか頭が働くなって来た…、力も入らない。

気付けばなまえはベンチに押し倒されていた。

ようやく銀糸を紡ぎながら互いの唇が離れれば、朔間先輩は私を見下ろしながら満足そうに濡れた唇を舐めた。


「よく覚えとけよなまえ。これから俺がお前にする事を。お前の中に俺という存在を刻み込む瞬間を。俺以外に目が向いてんなら俺へと向けさせればいいだけの事だ」

再び先輩の顔が近づく、その際に耳元で囁かれた愛の言葉は…



「俺を好きになれよ、お前は俺のもんだ」



涙が出そうな程切なく、震えた声だった。


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