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5.理由を聞ける仲ではないけれども

あの出来事があってから、身の回りで大した変化は起こらなかったものの、皆が俺を避けて通る廊下で嬢ちゃんだけは俺とすれ違う度に、控え目ながらもちらりと俺に向け目線を寄越した後、小さく頭を下げるようになった。

俺もその会釈に答える様に小さく手を上げ頬を持ち上げてみせるのだが、俺のその表情を見る度に彼女の小さな肩が跳ねる。

俺の笑った顔はそんなに怖えのか…?






瞬く間に時は過ぎ、俺は3年生になっていた。
周囲への俺の悪評は相変わらずだ、3年生でも変わらず一人過ごす羽目になるんだろうか…、別に寂しかねぇけどよ…。

朝から貼り出されていたクラス表の中から俺の名前を見つけ出し、示された教室へと足を進めた。

これでも遅刻や無断欠席の類はした事ねぇんだ、周りや教師からは気味悪がられるだけだがな。

がらりと教室の引き戸を引き、一瞬にして空気の凍った教室を見渡す。
あぁ、この空気はもう慣れてんだ。今更なんて事ぁねぇよ。

1人、窓際の席にえらくしゃんと姿勢を正し、座っている女生徒を見つけた。
見覚えのあるその姿は、珍しく俺に会釈をしてくれるみょうじのものだ。見間違う筈がねぇ。

3年生になってついに同じクラスになったか、見た所席順は自由っぽいな。

みょうじの四方一帯には誰も座っている気配が無い…と思ったが、みょうじの前の席の椅子にカバンが置いてあるな、先約が居たか。

まぁいいと俺はみょうじの隣にカバンを置き、腰を落ち着けた。

「よぉ、みょうじ。何の腐れ縁だか同じクラスになっちまったみてぇだし、これから一年よろしく頼むわ」

机に頬杖を付きながら声をかける。
ゆっくりと肩まである髪を揺らしながらこちらへ目線を向けたみょうじの顔は…微かに目が腫れていた。

明らかに泣いた様に見えるその瞼の腫れは俺の表情を固まらせた。

「…おはようございます、1年間よろしくおねがいします」

淡々と告げた挨拶には感情がこもってない。

…何か、あったんだろうか。


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