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9.それぞれの真意とは

朔間先輩を置いて喫茶店を後にしたなまえはまるで指先に残る熱を払うかの様に手を揺らしながら自宅へと戻って行った。

家に着くと一件の不在着信。
誰かと思えば羽風先輩。

何かプロデュースに関しての事だとはにわかにも信じがたいが、もしそうであった場合を考えると掛け直さないわけにはいかない。

小さな溜息を漏らした後、羽風先輩へとコールボタンと押し、通話口を耳に当てると3コール足らずで羽風先輩は出た。

「あれ?なまえちゃん?君から電話が来るなんて珍しいなぁ。どうしたの?朔間さんに飽きたから今から俺とデートしたいってお誘い?」

微かに笑い声を混ぜながらそんな事を言う羽風先輩にやはり大した用ではなかったのだろうかと思いつつも、とりあえず先程の電話の要件を聞いてみる事にした。

「どうしたの、って先輩から電話かけてきたんじゃないですか。ユニットやプロデュースに関して何かあったんですか?」

思い切り業務連絡風に言葉を返す。

「あぁ、そうだったそうだった。いやぁ、俺が帰った後朔間さんとはどうなったのかなぁって思ってさ、俺のタンポポちゃんが食べられちゃったりなんて事になってたら流石に俺もショックだからさぁ」

私がいつ貴方のものになったのだろうか。
普段からなまえの事をタンポポ呼びをする羽風先輩はなおも通話口の向こうで微かに笑い声をあげている。

「そんな間違い起こす筈がありませんから、朔間先輩は私の事をからかいたいだけなんですよ」

「…あはは、朔間さんって案外奥手?それとも君が鈍いだけなのかなぁ」

意味深な言葉を残す羽風先輩。

「どういう意味ですか?」

「ここだけの話ね、朔間さんってなまえちゃんの事見てる事が結構あるんだよ。しかも愛おしげに見つめちゃってさぁ、見てるコッチが赤面しちゃいそうなんだよね」

「それって、凛月くんと同じ様に可愛がってくれてるだけなんじゃないんですか」

「んー…、俺からはこれ以上は言えないなぁ…っと、そろそろ時間だ。なまえちゃん、また明日学校でね。おやすみ」

こちらにわだかまりを残したまま通話を切った羽風先輩。

だって凛月くんと同じ様な感情でないなら、考えられる答えは少ない。

途端に指先に熱が舞い戻ってきた。その熱は腕を伝い顔まで上がって来てしまっているような感覚だ。

もう一度手に持っていたスマートフォンが震え、画面に表示された人物は朔間先輩。

数回の呼吸の後通話ボタンを押した。






「朔間先輩は、結局何がしたいんですか?
弱みを握って来たかと思えば、応援するかの様にチャンスはあるって背中を押して」

「はて、我輩は応援するとは一言も言っておらんよ。して、嬢ちゃんや、ちょっと家の外に出てきては貰えぬかの」

またもや一方的に切れた通話。

窓の外はもう既に夜闇に包まれている。


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