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8.辺りに響く単調な電子音

零side


嬢ちゃんが顔を赤らめて店を後にしてから暫く、我輩はまだそのお店の中に居た。

ふむ…、先程の泉くんの様子からして、我輩と嬢ちゃんが手を繋いでいたのを快くは思ってない様子じゃったのぉ。

「…つまりはそういう事かの」

一人自己完結すると、ようやく席を立ち、凛月の居ない寂しい自宅へと歩みを進めた。





その日の晩、夜は我輩の領域じゃて、我輩は妙に気が急いていた。
おそらく泉くんは明日にでも嬢ちゃんに何かしら問いただすつもりじゃろうし…

スマートフォンを取り出すと慣れないもののポチポチっと操作してみせれば、なまえと登録してある嬢ちゃんへと電話をかけた。

数コール後に通話口から普段よりも半トーン高い嬢ちゃんの声が届く。
…ふむ、心地良いものじゃのぉ。

その声に聞き惚れ、返答を返さぬ我輩に嬢ちゃんが「朔間先輩?」と名を紡いだ。

「嬢ちゃんや、今だ泉くんの事を思っているのかえ?」

「…っ、突然何を言い出すんですか、私はもう振られた身ですよ」

「ふむ、しかし今日の様子から見て、とてもそうとは思えんのじゃよ。泉くんの返事をちゃんと最後まで聞いたのかえ?」

「…そう、言えば何か言ってたような」

「つまりはまだチャンスはあるという事じゃて、諦めるにはちと早過ぎる」

我輩は嬢ちゃんと言葉を交わし合いながら腰をあげると、家の外へと出た後ゆっくりと歩みを進める。

「朔間先輩は、結局何がしたいんですか?
弱みを握って来たかと思えば、応援するかの様にチャンスはあるって背中を押して」

「はて、我輩は応援するとは一言も言っておらんよ。して、嬢ちゃんや、ちょっと家の外に出てきては貰えぬかの」

着いた先はみょうじの表札のかかった嬢ちゃんの家、ほんのりを明かりの灯る部屋を見上げながら嬢ちゃんの声が漏れる通話口を耳から離すと通話ボタンを切った。

夜闇の中で単調な電子音のみが鳴り響いていた。



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