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4.不器用な彼女

その日家に帰り、ポケットからほつれたぬいぐるみを取り出しては早速修繕に取り掛かった。

餓鬼の頃から幼馴染と一緒に裁縫を学んで来た俺にとっては何て事ねぇ作業で、数分で仕上げてしまった。

物足りなさを感じ、あれこれと付け加えようかとリボンやらレースやらと手にとって、しばらく悩んだ後、結局踏み止まった。

俺が直したぬいぐるみにレースとか付いてたら気持ちわりぃよな…。
ツーかそもそも男がぬいぐるみを直す時点で気持ち悪かったか…?

元が真面目な性格故、自ら引き起こしてしまった事は自分の手で、責任を持って片付けたかった。

ひとり悶々と悩みながら、ぬいぐるみを鞄の上に置いた。



次の日の昼休み。
隣のクラスへと赴き、教室の扉から中を覗き込んでは椅子に座った彼女の姿を見つける。

「みょうじ!」

既に声変わりも始まり、微かに掠れた声で彼女の名前を呼ぶ。

教室の中も外も、ざわりとどよめき、静まり返える。

当の本人は、昨日のように肩を跳ねさせ静かに立ち上がると辺りの視線を集めながら俺の元へと寄って来た。

…しまった、放課後とかに手紙で呼び出した方が良かったか…。

俯き加減の彼女の前に、昨晩修繕したぬいぐるみを差し出す。

するとパッと顔を上げ、ほんの少しだけ眉を下げながらどういう事かと疑念の視線を送ってくる。

「あー…、昨日俺のせいでほつれさせちまった訳だし、簡単にだが、直させてもらった」

当然、辺りは静まり返っていた為俺の声が響く。

遠くで甲高い笑い声が聞こえる。

「ありがとう…ございます」

そのぬいぐるみを両手で受け取ると彼女は俺に深々と頭を下げた。

「鬼龍がぬいぐるみを直したって事か?」

「あんな見た目して、裁縫とかすんのかよ」

「男で裁縫とか…」

再び微かにざわつき出した周囲からそんな言葉が耳に届いた。

やっぱり、まぁ…そうなるわなぁ。

特に気に留める様子もなく、その場を後にしようとすると

「あの、…そんな言い方ないと思い、ます」

目の前のぬいぐるみの嬢ちゃんのやけに上擦った声が聞こえた。

「男の人が裁縫、しちゃいけないなんて…そんなきまりありません、し。私…裁縫出来ない、から、捨てちゃおうかなって、お気に入りだったんです、けど…。でも、この人、のおかげで…」

相手に背を向けたまま途切れ途切れに紡がれる言葉、時折上擦る声。
男と話すのは慣れていねぇんだろうか。

「…ふはっ、みょうじも女なら裁縫位出来る様になれっての、そういうのは女の仕事だろ〜?あれ、もしかしてお前女じゃねぇの?なーんて」

言い返された男子生徒は机に座ったままけらけらと笑い飛ばした。

小さく震える彼女の頭に手を置き、数回軽く弾ませては妹に見せているかの様な笑みが自然と零れた。
後に顔を上げ、眉間に深く皺を刻ませつつその男子生徒を睨み、彼の萎縮した様子を眺めると鼻で笑いながら教室に帰った。

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