▼ 2.ほつれたぬいぐるみ
それから、俺の噂の広まりようはすごかった。
"1年の赤髪が入学数日で上級生をシメたらしい"
まぁ正確にはシメられそうになったのは俺の方なんだがな。
その噂が広まるに連れ、知らねぇ上級生から喧嘩を吹っ掛けられる事が多々あった。
元々運動が出来る方だった俺は加えて空手も習っていた為、喧嘩に関しての物覚えが良く、負けなしだった。
そんな俺に近付く輩なんてものはみんな決まって素行が悪い奴らばかりだった。
根は曲がったことが嫌いだった俺は、学校の規則や法律に背く様な事はしないものの、日々売られる喧嘩に明け暮れていた。
1年が終わる頃にはすっかり一匹狼の完成って訳だ。
そんな状態が2年の半ばまで続いた。
ある日、皆が俺を避けて通る廊下を歩き、角に差し掛かった瞬間何かにぶつかっちまった。
俺は微動だにしなかったが、どうも俺にぶつかった人物はすっ転んじまったらしい。
その人物を見下ろすとうつむき加減で腰を抑えていた。
制服、髪の長さからして女子だった。
「オイ、大丈夫か?」
上から声を掛けてやる。
跳ねる様に上げられた顔は、俺と目が合うと途端に顔色を曇らせた。
「あっ、…すいません。」
大丈夫かと問うたのに対し、なぜか謝罪をする彼女。
大方俺の噂と持ち前の目付きの悪さにビビっちまってんだろうな。
「…怪我はしてねぇか?」
一応、もう一度問うてみる。
彼女はビクビクとしながら立ち上がり、俺と目線を合わせる事なく、
「はっ、はい。…あっ、」
彼女の目線の先を追うと、糸のほつれたキーホルダーについたぬいぐるみ。
転んだ拍子か、はたまた俺の服にでも引っ掛けちまったか、そのぬいぐるみの腕は今にももげそうになっていた。
「あー…、オイ、嬢ちゃん。ちょっとこっち来い」
そう言って踵を返し、歩き出すも後ろから足音は聞こえてこない。
足を止め、振り返ると、案の定彼女のはその場から動いていなかった。
「オイ、早くしろ!」
少し距離が空いちまってた為、声を張る。
すると彼女の小さな肩はビクンと跳ね、慌てて俺のそばへと駆け寄る。
(あーあ、ビビらせちまったかね)
歩いている間、言葉を交わす事なく、俺たちは空き教室へと姿を消した。
それとほぼ同時に始業の鐘が鳴った。
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