2.バスケットは…お好きですか?


『あ、花道。やっと学校来たんだね』

新しいクラスでの自己紹介やらを終え、廊下を歩いていると大きな身長のてっぺんに赤い頭をのっけた人物の後姿をとらえる。

あんな奇抜で大きな人は、一人しか知らない。
私の長い間の思い人である、桜木花道だ。
横にはなぜかたんこぶをこさえたetc.が居る、洋平は相変わらず涼しげな表情を浮かべたまま、私の方へと視線を向けた。

「よう、今朝ぶり。花道のやつ、まーだ振られたこと引きずってやがんの。さっきから『バスケ』って単語にすげえ敏感でよ、なまえも気ぃ付けろよ」

花道の方へと駆け寄る私に、洋平がそう助言をくれる。
花道の耳には届かないようにと、身を屈めて口元に掌を添えて私の耳元で囁いて。

そんな忠告を受けていた最中、背後から可愛らしい声音で呼び止められた。
花道が今、とても忌み嫌うその単語を添えて。

「バスケットは…お好きですか?」




なんとまぁ見てて分かりやすい男だ。
花道の好きそうな可愛らしい顔した女の子に腕を触られて、舞い上がっちゃってる。
終いには

「大好きです。スポーツマンですから」

なんて言い出す始末。さっきの嫌いようはどこへやら。

晴子ちゃんと名乗る可愛らしい子が駆けていってからも、洋平を含むetc.は

「花道にも春が来たー」

なーんて言っちゃって。私にはずっと春は訪れないのに。

可愛い子に声をかけられて、一目惚れ。そんな単純な彼を好きである自分の気持ちを隠すように、みんなと一緒になって花道をはやし立てた。




みんなと別れてから、ひとりトボトボと廊下を辿って、自分の教室へと戻る。
あー、春きちゃったかぁ、バスケに興味を持ってくれるのは嬉しいんだけどなぁ…。
なんて色々考え込んでいたら、ケータイが震えた。

ガラケーを開いて、メールを受信。差出人は洋平からだ。


帰り、一緒に帰ろーぜ。アイスおごってやる。


短文で送られたメッセージは、おそらく花道を好きでいる私を気遣ってのものだろう。毎度毎度、慰められちゃって申し訳ない。
しかし、彼の善意に素直に甘えようと急いで承諾のメールを送った。