1.入学



「よう、なまえ。新しい制服、中学の時と違ってブレザーなんだな、似合ってるぜ。」

今日から高校生だ、と玄関先で意気込んでいた最中、ボンタンのような学生服に身を包んだ男に声をかけられる。水戸洋平だ。

『おはよ、洋平。洋平はあんまり変わんないね。』

彼とは中学の時から仲が良い。きっかけは当の昔に忘れしまった。おそらく花道経由だと思う。

『なぁ、花道は?あいつ、今日から高校生だってこと、ちゃんと分かってんのかな。』

桜木花道、私の幼馴染。奇跡的に同じ高校へと進学出来た、赤髪の大男。みんなが認めるほどのバカの上、振られまくり男。でもそんなバカにずっと初恋を拗らせてる私も、きっと同じ様にバカなんだと思う。

『んー、分かんないな。まぁ遅れてくるでしょ、じきに。』

なんて何気ない会話を交わしながら、洋平と肩を並べてこれから高校生活を送る学校へと歩いて行く。

「なまえはさ、バスケ、もうしねぇの?湘北高校、バスケ部ねぇけど。」

『女バスはないけど、男バスはあるよ。だからマネージャーでも、しようかなって。バスケにはずっと関わっていたいから。』

湘北に女子バスケ部がないことは、知っていた。中学までのバスケで自分自身に限界を感じてしまっていた私は、高校ではサポート役に回ろうと決めていたのだ。片手をズボンのポケットへと突っ込む洋平に視線を向けて。

『洋平は何もしない?また桜木軍団で喧嘩に明け暮れるのかな。』

「さー、どうだろうな。別に喧嘩、俺達からふっかけてる訳じゃねぇし。売られたから勝ってるだけ。」

彼らはみんな、根は優しくていい人達であることを私は知っている。けれど、和光中までの彼らの噂は、きっとみんなを遠ざけてしまうだろう。花道は赤髪リーゼントだし、怖い要素しかない。

なんて話していたら学校に着いた。




長ったらしい入学式を終えて、自分のクラスへと足を運ぶ。
花道や洋平、その他etcとは離れてしまったが、ここで新しい高校生活を始めようと深呼吸を数回、扉をガラッと開けた、開けたのに視界は真っ暗だ。なぜかと首を傾げたが、合点がいった。大男が扉の目の間に立っていたからだ。
顔を上げて、その大男の顔を確認する。

「…どけ、どちび。」

切れ長の瞳が私を見下ろす。何度かコートで見てきたあの人だ、流川楓。
実物はやっぱりイケメンなんだなぁと、悠長に黄色い声援が注がれていた事を思い出しながら、スッと身を引いて。

『ごめんなさい、邪魔しちゃって。私もこのクラスなの、これからよろしくね。』

そう言って営業スマイルを浮かべてみたが、彼の表情は崩れない。
小さく頭を下げて、教室から出ていってしまった。

『あの人、湘北来たんだ。確か三井さんも、宮城さんも湘北のはず。マネージャーとして、やりがいありそう。』

頭の中に選手構想を思い浮かべながら、自分の席へと着いた。