Long | ナノ

3.自己紹介

「は〜い、そこまで〜♪」

言い合う2人へと向け金髪の青い眼鏡の奥にエメラルド色の瞳を携えたもう一人の男の子が声を掛けた。

「きみたち、転校生にみょうなコントを見せるために声掛けたんじゃないでしょ?カノジョに、何か頼みたいことがあるんじゃなかった〜?」

…頼みたいこと?
転校してきたばかりの私に?
一体なんだろう。

「おぉ、そうだった! いいこと言うなウッキー! さすが『トークの達人』、頭の回転がマッハだ!
眼鏡かっ?眼鏡をかけてると『トーク力+50』とかそういう補正があるのかっ?」

「そう、そう。眼鏡を外すと何もわからなくなって…あれ?僕の名前は…何だっけ? 転校生ちゃん、知ってる?」

「転校生が知ってるわけないよ、ウッキ〜!初対面なんだから!」

…また、なにか始まったのかな。
そう思って先程とは違う2人のやり取りをただ眺める。

「いや〜。せっかく明星くんがネタをふってくんだからボケなきゃいけないって思って♪」

「そういうところ好きだよ、ウッキ〜☆」

「僕も明星くんが大好きだよ〜♪」

…本当に何なんだろう、コレ。
ちらりと時計を見るとかれこれ5分ほど私無しでも話が成り立っている。
一体何を頼みたいんだろう…?

「おまえら、仲良すぎて気持ち悪い。
まぁいい。こいつらに任せていては話が進まないので、俺からいろいろ説明させてもらう」

やっと本題に入れるようだ。
すると再び明星くんが横から茶々を入れて来た。

「堅苦しいな、ホッケ〜! ノってこいよ、このボケの大波に…☆」

明星くんに続く様に先程からウッキーと呼ばれる彼も口を開く。

「そうだよ、このビッグウェーブに乗るのは今しかないよ、氷鷹くん!」

「うるさい、アホコンビ。
ふん。まずは、自己紹介をさせてもらおう」

そう言って氷鷹くんは私の目の前に左手を差し出して来た。

「俺は、氷鷹北斗という。この2年A組の委員長をやっている。
教師から、お前の世話を頼まれている。だから、なにか困ったことがあったら、俺に相談してほしい。委員長としての仕事の範疇で、善処する」

差し出された手に私の手を重ね軽く力を込めると無表情だった氷鷹くんが微かに笑みを浮かべ、握り返してくれた。
続いてウッキーと呼ばれる彼が頭の横にピースを作り

「乗るよ、その自己紹介の波に…!
俺は遊木真っていうんだ、よろしくね!ウッキ〜でいいよ!」

成程、遊木くん…。
唇の先で小さく遊木くんの名前を反芻させた。

「『ゆうき』だから『ウッキ〜』だぞ! あとお猿さんっぽいところあるし!」

「あっ、振りだね! それはボケの振りだね! ちょっと待ってボケるから!」

「自己紹介をしろ遊木」

またもや脱線しそうになる明星くんと遊木くんを氷鷹くんが制した。

「はいはい〜、えぇっと、僕は『放送委員会』に所属してる。いろいろ情報が集まる立場だから、知りたいことがあったら僕に聞いてね。
定期考査のヤマから、教師の浮気相手まで何でも教えてあげる♪」

「俺も自己紹介する〜☆ さっきもしたけど何度でもするよ!
俺は、明星スバル! ホッケ〜が『委員長』でウッキ〜が『放送部』なら、俺は『金の亡じ…」

「喋るな明星、ややこしくなる。
まぁいい。俺たちは、日頃この三人でつるんでいる事がおおい。こんなアホ共の仲間だと思われるのは心外だが、ちょっと事情があってな。
正確にいうとあと一人…つるんでいるやつがいるが、まぁ、あいつの紹介はあとでいいだろう。
ちがうクラスだしな、またの機会でいいはずだ」

「おいおい、サリ〜だけ仲間外れは可愛そうだぞ! 俺たちは友達じゃないか! ちょっと待ってろ、つれてくるっ☆」

明星くんはそう言うや否や私達に背を向け走りだそうとした。
そこをすかさず氷鷹くんが明星くんの首根っこを掴んだ。
…慣れてる。

「つれてくるな。頼むから、ややこしくしないでくれ。
まぁいい。
そろそろ、HRの時間だな。話のつづきは昼休みにしたい。
予定をあけておいてくれ、転校生。転校初日から振り回してしまって申し訳ないが。
俺たちは、おまえに頼みたいことがある。これは、おまえにしか頼めないことだ。
おまえにそんな義理はないだろうが、どうか俺たちのために時間を割いてほしい。
よろしく頼む、転校生」

それだけ言って微笑むと、タイミングを見計らったかのようにチャイムがなった。

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