Long | ナノ

22.僕は本気です

「…はぁ?アンタ今なんて言ったの、てか俺とゆうくんの問題に口出さないでくれる?お遊びなら辞めろって言ってんの。チョ〜うざぁい」

先程の私の発言が気に入らなかったのだろう、瀬名先輩は綺麗なお顔を歪ませ、冷えた海底のような青い瞳でなまえを見据える。

「ですから、真くんは確かにお人形の様なきれいな容姿をしています、それを否定するつもりはありません。ただ、中身までお人形の様に無感情な訳ではないと思います。
私はまだ数日しか一緒に過ごしていませんが、真くんの様々な表情や感情を見てきました。
瀬名先輩は真くんの嬉しくて仕方ないと言った表情を見た事がありますか?雑誌やテレビに映るモデルさんよりずっとずっと輝いていました。
そしてそれは『Trickstar』の皆も同じです。皆キラキラと光る宝石の原石です。先輩も同じアイドルを目指しているなら、一度私達『Tricstar』のパフォーマンスを見てからにしてはどうですか?」

たっぷりの嫌味を込めて最後に笑顔を交える。
瀬名先輩の眉間の皺は先程よりも深く刻まれている。

「…お遊びなんかじゃ、ないです。
僕は本気です。
ううん、この場所でしか、自分が生きてるって実感できない。
『Trickstar』は空っぽだった僕の人生で見つけた初めての宝物なんです。
絶対に失いたくない。
僕はもう、心を殺しながら生きていくのは嫌なんです。」

真くんがレンズの奥から真っ直ぐ瀬名先輩を見つめてそう口にする。

「ふぅん…?
いいけどね、別に。どうせ失敗して、挫折して戻って来る。遅いか早いか、だからねぇ?」

なおも食い下がらない瀬名先輩に真緒くんが痺れを切らしたかの様に

「おい、あんた。いきなりズケズケと踏み込んできて何なんだいったい?
あんたが真とどんな関係なのかは知らないけど…分かったようなこと言うなよ?
こいつは努力してる。足りないところがあったとしても、俺達が埋めてみせる。
真は『きれいなお人形』なんかじゃない、人間として生きは始めたんだ!それを邪魔すんなよ!」

「…衣更くん。」

「ふぅん。暑苦しいねぇ、鬱陶しい。努力とか、情熱だけで渡っていけるほどアイドル業界は甘くないよ?
現実は冷たくて、数字が支配していて、心はすぐに壊れる。
それを思い知って、さっさと戻っておいでよ。いつでも大歓迎だからね、ゆうくん。」

それだけ言いのけると入ってきたドアへと踵を返した。

「…弟みたいに思ってたのに」

ドアが閉まる直前、微かに届いたその言葉を聞いたのはなまえだけだったのだろうか。

「泉さん。あぁ、言いたいことだけ言って帰っちゃった。あの人結局何が目的だったの?」

「でもまぁKnightsは俺達の出る『S1』には参加しないんだろ?今は気持ちを切り替えて本番に備えよう!『私達』Trickstarの実力を見せてやろうぜ!」

いまだぼんやりとドアへと目を向けていたなまえに真緒くんがニヤニヤしながら顔を向ける。
ハッとしたように先程の発言を思い出しては両手を頬に当て、顔を隠す。

「ははっ、なんだよそれ。それにしてもなまえもちゃんと俺達の事仲間だと思ってくれてたんだな、嬉しいよ。ありがとうなまえ」

真緒くんは柔らかく頬を緩めてなまえの手を取り、顔から片手を退かす。

「ぼ、僕も!
さっきなまえちゃんが泉さんに物申してくれた時すっごく嬉しかった。後出しみたいになっちゃって格好悪いけど、なまえちゃんの言葉があったから泉さんに言いたいことが言えたんだ、ありがとうなまえちゃん」

真くんは両手でなまえの手を取った。

火照った頬を晒さられ、隠す術のないなまえは照れ臭そうにはにかみながら1言。

「…絶対、勝とうね…!」




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