Long | ナノ

21.お人形

暫しの沈黙後、真緒くんが口を開いた。

「……おい、真。
このひと何なの、お前の知りあい?」

という事は真緒くんも知らない人、なのかな。

「……さっき言ったでしょ、『ちょっと面倒なひとに絡まれた』って。
これが、そのひと。夢ノ咲学院における最強『ユニット』の一つ……。
『Knights』のメンバー、瀬名泉さん。
むかしから、なぜか僕によく突っかかってくるんだよ〜」

『Knights』…
そういえば朔間先輩が、学院内の有望ユニットを幾つか紹介してくれた。
その中の1つにあった気がする。

確かそのユニット名のごとく、騎士をモチーフにしたユニットで、歴代続く強豪だって言ってた。

「ねぇ、ボソボソと内緒話しないでくれる?チョ〜うざぁい!
だいたい水臭いじゃない、俺は可愛い後輩を応援しようとしただけなのに、逃げちゃうんだもん、ゆうくん。酷いなぁ、傷ついちゃうなぁ〜♪」

今時の女子高生みたく言葉を並べる彼は、発した言葉とは裏腹にどこか楽しそうだった。

「いちおう、忠告しようかと思ってさ、何を張りきってるのか知らないけど。
歌もダンスも駄目なゆうくんがアイドルなんて出来る訳ないよ。
グラビアモデルの世界に戻っておいで?あの頃のゆうくんが1番輝いてたよ?」

グラビア…モデル。
確かに真くんの容姿は格好良い、というよりもきれい、という言葉の方が相応しい。
だから真くんがそんな過去を持っていたというのは頷ける。頷ける、けど。
なまえは胸に引っ掛かる思いを抱えながらも口を閉ざしたまま、目の前の銀髪の人物の言葉に耳を傾けていた。

「ゆうくんは『きれいなお人形』、飾られてこそ輝く。人形が自分の意志で動き始めたら、それはもう気持ち悪いだけだよねぇ?」

真くんが、お人形?
こんなにも感情を豊かに表現する真くんが?

ここ数日の真くんと交わした言葉の合間に見られた彼の表情を思い返しては、なまえは一つ大きく息を吸い込んだ。

「瀬名先輩、お言葉ですが…」



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