Long | ナノ

14.タンポポの刺繍

「押忍!
えっと転校生さん、わざわざご足労ありがとうございます!」

武道場の戸を引くと、大きな声が響いた。

思わず肩を跳ねさせた後、その声の方向を見ると、B1の龍王戦で司会を務めていた彼がいた。
確か、…南雲、…なんだったけ。

「ささっ、こちらへどうぞっ!」

中へと促してくれる彼の名前を思い出そうとしていると、突然なにもない所でつまづく南雲くん。
大丈夫っ!?と駆け寄ると、今度は横から声が聞こえた。

「鉄、相変わらずお前は落ち着きがねぇなぁ」

…鬼龍先輩だ。
やっぱり、怖い。
それにしても…鉄、鉄…あっ、鉄虎くん、だったような。

二人のやりとりを眺めているなまえに気が付いた鬼龍先輩が鉄虎くんに「なにか面白い話をしろ」と無茶振りをする。

その無茶振りに懸命に答えようとする鉄虎くんは、なぜか突然早口言葉を言い出しだ。

それがおかしくて、ついふっと笑みを零すと鬼龍が「…ほう」と目を細めながら満足そうになまえの顔を見た後、本来の目的を思い出したようにハンカチを差し出してくれる。
可愛らしいタンポポの刺繍が施されている。

見覚えのないそのハンカチに首を傾げると、どうも朝に間違えて持ってきてしまったらしい。

…なんか、結構可愛らしいかも。

代わりにそのハンカチをくれるというので、少々渋った後、受け取った。
それにしてもその刺繍の出来はかなりのものだ。

聞くとそれは鬼龍先輩が施したものらしい。
裁縫が好きでユニット衣装なんかも手掛けている、と言っていた。

そして鬼龍先輩は、自分が生徒会側の『紅月』の副将である事、しかし学院の現状は肯定できないという事、更には表立って協力は出来ないが、裁縫の『いろは』を教えてくれると言ってくれた。


鬼龍先輩、鉄虎くんに後押しされ、やる気で満ち溢れた表情を浮かべながらなまえは氷鷹くんたち三人の待つ場所へと駆けて行った。

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