▼ 10.過去編
千秋side
俺が中学三年生だった時の事だ。
当時の俺もバスケ部に所属していて、キャプテンをさせてもらっていた。
彼女は…みょうじなまえは女子バスケ部だった。
なまえの一つ上の学年、つまりは俺と同じ学年には女子バスケ部の子はおらず、部の中で一番上手だった彼女が必然的にキャプテンをしていた。
女子と男子と言っても同じバスケ部のキャプテン同士、接点はかなりあった。
NBA(平たく言うとアメリカのバスケット)の事であったり、お互いの試合について話し合ったりと、共に過ごした時間は多かった。
だが、俺は決して彼女に惚れていた訳ではない。
あれは中学最後の大会。
俺たち男子バスケ部は準決勝まで上り詰め、なまえたち女子バスケ部は最上級生が居ないながらも、次勝てば準決勝進出というところまで勝ち進めていた。
もちろん男子バスケ部総出で、女子バスケ部を応援する。
コート上にいた彼女は、いつもの優しい雰囲気ではなく、逞しく、強さを持っていた。
いつも見ていたはずなのに、その時の彼女のプレーは色濃く頭に残っている。
試合は惜しくも三点差で負けた。
まだあと一年あるからか、ベンチは誰一人として涙を流している者はいなかった。
彼女に声を掛けようと、固まっていた女子バスケ部の元へと寄るも、そこになまえの姿はなく、いわく
「コーチに呼ばれてるからって、向こう行きましたよ」
と廊下の奥を指差す。
お礼を言い、教えてもらった方へと歩いて行くと彼女の背中が見えた。
声を掛けようと右手を上げたが、唇から言葉が紡がれる事はなかった。
…なぜなら彼女は泣いていたからだ。
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