STORY | ナノ

▽ bkcr記念


「速報! 速報だよこれ見て!」
 帰ってくるなり俺はソファに座っていたスイレン君に自身のイカ型端末を見せた。突然見せられて画面の明るさに目を細めるも、すぐに慣れて画面に映っているものがはっきりと分かってきた。
「…!」
「え、なになにニサカにも見せて」
「何故スイレンには見せて私は駄目なんだ」
「べ、別にそういう訳じゃ…ってスイレン君!?」
 画面を見たまま固まっていたスイレン君が突然立ち上がったかと思うと部屋の隅まで移動して壁に拳を打ち付けた。軽く、ではあるが絶え間なく行われるそれにリーダーは、近所迷惑だぞ、と釘を刺している。まあニサカさん曰くここはかなり防音設備が整ってるらしいので、近所迷惑は多分大丈夫だと思う。
 リーダーの掛け声でスイレン君の動きが止まった。
「………尊い…」
 かと思うと、絞り出したような小さな声でそう言ったのが聞こえた。…かなり喜んでるみたい。
「たってレン、普段からジェッカスと傍にいるんだからおもちゃとかあんまいらないんじゃねーの」
「いりますよ! だってたくさん集めればたくさんのジェッカスと傍にいられるわけじゃねーですか!」
「わぁ、信者の目…」
 さすがのニサカさんも引き気味だ。でもスイレン君はそんなのお構いなしで笑顔を浮かべている。俺としては、ジェッカスに興奮するスイレン君よりも普段笑わないスイレン君がこんなにも喜んでいるのがなんだか怖い…。
 まぁスイレン君が喜ぶ気持ちも分からなくはない。実際のブキは一人一つしか買えないのだ。その分愛着もわきやすいんだろうけど、一部のブキ狂愛者にとってはとても悲しい現実らしい。だからたとえ小さなおもちゃでも、好きなブキとたくさんいられるのは嬉しいんだと思う。
 そう思うと、俺ってあんまりブキ愛ないのかなぁってちょっと考えてしまう。きちっとメンテはしてるし大事にしてるつもりではいるけど、俺はスイレン君程わかばを愛せそうにないや。
 すると先程まではしゃいでいたスイレン君が突然固まったかと思うと、頭を壁に預け、はぁ、と深い溜め息を吐いた。その表情はまさに絶望、といった感じ。テンションの忙しい奴だな、とリーダーはぼやく。
「つまり自分以外の誰かもジェッカスのことを集める可能性があるんですね…」
「そりゃジェッカス好きはごまんといる訳だしな」
「うっ。ううううう、う、許せない…」
「ええ…」
 リーダーの返答に唸るスイレン君。さすがの俺も苦笑いしてしまう。すると、スイレン君が鋭い目付きで俺を睨んだ。
「なんですかその呆れておかしくて馬鹿にしたような声は」
「そこまで言ってないよ!?」
「こうなったら仕方ねーです。誰よりも早く手に入れなければ! ナノ!」
「は、はい!」
「ほら、行きますよ!」
 スイレン君は突然俺の手を掴んだかと思うと凄い早さで玄関まで引っ張っていった。かなり強い。強すぎてもはや振りほどくなんて選択肢がないくらい。
「って、発売、ま、まだ…!」
「ではリーダー、行って参ります!」
「待って! あああああ…」
 俺の叫びも空しくそのまま外へ連れ出されてしまった。
 後ろからニサカさんの笑い声が聞こえる。これは多分お腹を抱えて笑ってる声だ。わ、笑ってないで助けてよ!

 結局お店に着いてもその商品が売っているはずもなく、鬱憤晴らしにずっとタグマを付き合わされることになったことは、言うまでもない。



2018/04/03



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