うちは一族が惨殺された。
犯人はあのうちはイタチだそうだ。
いや、生き残りは1人だけいるらしい。


街の人々は皆、2人とか3人とかで固まってひそひそと同じような内容の話をしていた。そんなはずはない。私はそんな話、信じない。
ああもう、そんな話、聞きたくない。
そんな話、どうでもいい。
私には今、会わなくちゃいけない人がいる。
確かめなきゃいけないことがある。
いそがなきゃ。もっと、もっと早く走らないと…!

家を飛び出して、街中を駆け抜けて、関門を突破して。
ひたすら走って深い森の中にその人はいた。私が憧れて憧れて、とうとう追いつけずに二度と会えなくなるかもしれない人に、ようやく会えた。
喘息が悪化して苦しい。ひゅーひゅーなる。本当は薬を吸入しなきゃいけない。けど、そんなことしてる暇はないの。

「どうして」
「…」

私に気付かないのか、無視しているのか分からないけど、未だに歩みを続ける背中に1番最初にかけた言葉。彼は歩みを止め、ゆっくりと振り返った。
ざあっと風が私と彼の間を駆けた。

「イタチちゃん、どうして」

涙が零れそうなのを必死に堪えて、滲む視界に映る彼、イタチちゃんの目は赤く染まっていた。

「お前には関係ないだろう」

冷たく発せられた一言。
そんなの、あんまりじゃない。
こんなにも走ってきたのよ。
普段は走ったらダメだからって、いつでも私のこと待ってくれて、走ろうとすればゆっくりおいでって言ってくれて、優しい笑顔で私のことを撫でてくれて。
走ったから、そんな冷たい目で見るの?
走ったから、そんな冷たい言葉しかくれないの?
だったら尚更、この件は私に関係がある。
だってイタチちゃんは、私のことをよく知っていて、私のことを考えてくれている証拠だもの。

「いいえ関係あるだって私は」
「…」
「私は、イタチちゃんのことが大好きだから」

我慢していたのに、涙が落ちちゃったじゃない。
悔しいだけなのよ。
イタチちゃんだけはいつも飄々としていて、でも私はいつでも感情的で。私がすごく醜く思えるからよ。

「名前」
「ねえ、違うって言って。そうしたら私、信じる。イタチちゃんじゃないって信じるから…!」
「名前」
「お願い、お願いよ…イタチ、ちゃん」

ダメだ。立っていられない。眩暈がする。
呼吸が整わないうちに泣いたり、感情的になったりするからだ。こんな肝心なときに…。やっぱり私は、醜くて、イタチちゃんがいなくちゃ、何もできない出来損ないなんだね。
ぐらりと歪み暗くなる視界。

「名前…!」



シューー…
シューー…

ぼんやりした暗闇の中、私の意識は回復した。
あれ、私、どうしたんだろう。
そうだ、イタチちゃんを見つけて、それで、喘息で倒れて…
あれ、苦しくない。
どうしてだろう。
だんだんはっきりとしてきた意識とともに、ゆっくりと目を開くと、真っ先に飛び込んできた映像に驚いた。

「イタチ、ちゃん」
「目が覚めたか」

そこには先程とは違う、いつも通りの目をしたイタチちゃんがいて、私の口元に吸入器を当ててくれていた。だから私は今、なんともないのだろう。

もう大丈夫だから

そう伝えればそうか、と短い返事とともにイタチちゃんが抑えてくれていた吸入器が口元から離れる。
体勢を整え深呼吸をしていたら、イタチちゃんが自ら語り出した。

「名前には、話しておいてやろう」

その先は一切覚えていない。
私の脳内に入ってきたのは少しのワードだけ。
うちはが木の葉を乗っ取ろうしていたこと、上層部からの命令で行ったこと、それでも弟のサスケは殺せなかったこと。

混乱する頭の中で私は少しだけ安心していた。不謹慎かもしれない。けど、イタチちゃんが、殺したくて殺したわけではないことがわかったから。
本人に言うのは酷だと思うから、今思ったことは私の中だけでとどめて置こう。

「上からの命令とは言え、一家を惨殺したのは俺だ。最後は結局俺の意思で殺した」

イタチちゃんにはお見通しだったみたいだ。

「イタチちゃんは、任務を忠実にこなしただけだよ」
「断ろうと思えば断れた。俺は名前が思うほど良い奴ではない」

すくっと立ち上がったイタチちゃんは再び目を赤く染めた。

「どこへ行くの?」
「さあな。だが、二度と会うことはないだろうな」
「私も一緒に行く」
「邪魔になるだけだ」
「そうかもしれないけど、独りは寂しいでしょ?」
「寂しい?俺が?」

馬鹿を言うな。
嘲笑うような目で私を見ているつもりなんでしょうね。独りが寂しくない?そんなはずはないでしょう。寂しくないのなら、だったら、

「だったらどうしてそんな目をしているの?」

微かに見開かれたイタチちゃんの目。
うん。間違いない。やっぱり貴方の目は、私と同じ目をしている。独りは寂しいって目。両親を亡くして、捻くれた私に声をかけてくれた貴方は、私の目を見てそう言った。優しくて暖かい目は私を優しく包んでくれた。独りじゃないよむて、寄り添ってくれた。今度は私が、貴方に寄り添う番。

しばらくの沈黙の後、イタチちゃんはくるっと背を向けた。

「え…」

呆然とする私。すると数歩先を歩いていたイタチちゃんはピタリと足を止め再びこちらへ向いた。

「勝手にしろ」
「え?」

くるりとまた背を向けて歩き出すイタチちゃんの言葉を理解するのに数秒かかった。ようやく理解した私は慌てて立ち上がり、駆け足でイタチちゃんに並んだ。

「何かあっても、俺はお前を守らないからな」
「大丈夫。自分の身は自分で守ります」

私はあの日、貴方の暖かさに救われた。今の私は、あの日の貴方がいたからです。だから私は、この生命が尽きるまで貴方についていきます。たとえその道が間違っていたとしても、ね。

葬り去られた真実
それは私たちだけが知るものであり、
誰も知る必要のないものである。

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